範馬刃牙 第251話 真・親子喧嘩



ついに地上最強の親子喧嘩が始まった!
今度の刃牙は本気だ。
本気でかしこまるほどに本気だ。
こいつ、本当に本気なのかな。


勇次郎に蹴られた刃牙は壁を突き破り、隣の広間へと吹き飛ばされる。
多くの客がディナーを楽しんでいた。
だが、刃牙の襲来によって皆が皆、混乱に包まれる。
日常が一瞬にして非日常になった。
ようこそ、グラップラーの世界へ……

派手に刃牙を吹き飛ばした勇次郎だったが、本人は何事もなくドアから入ってくる。
さすが作法を知る鬼、勇次郎だ。
もちろん、壁を壊して入室するなどといった、はしたない格闘家など存在していようはずもない。

[この男だ!!!]
[店内を揺るがす怒声]
[耳を聾する破裂音]
[強化ガラスの破壊]
[壁を突き破る少年]


勇次郎がその場に現れるだけで、来客者たちは様々な異常事態が勇次郎の仕業だと確信した。
恐るべき説得力と佇まいである。
刃牙にはしばらくは到達できそうにない領域か。
梢江の彼氏という威圧感くらいは与えられるかもしれない。

というか、声まで聞こえていたんだ……
親子喧嘩ダダ漏れだな。
隠そうとしても隠しきれるものでもないが。
この人たちも思わずかしこまっちゃったのだろうか。

[まさか!?]
[地震も……………………………??]
[この男なら納得だ…………!]


地震まで勇次郎が発端だと思っちゃった!?
いや、それはありえない。
ありえないが、ありえてしまうと思わせるのが勇次郎が勇次郎たる所以だ。
何せ落雷を制した男だ。
地震程度、ものともしない。というか、幼年期には地震を止めてたし。

天災と並べても遜色のないほどの存在になった勇次郎だった。
ヒーローになってもいいんじゃないだろうか。
永遠に持続するハンドレットパワーの使い手、オヤバカオーガとか名乗ればいい。

勇次郎にいいようにされている刃牙だが、これでエンジンがかかったのか。
駆け出して掌底を放つ。
が、勇次郎に頭を捕まれて空振りしてしまった。
これは相手との絶対的な実力差を示す儀式のような形だ。
大擂台賽の時、勇次郎に喧嘩を売った刃牙は同じような目にあった。
あの時は為す術もなく壁を突き破り投げ出された。
今ならば果たして……

勇次郎は誇らしいくらいに紳士的に来客者たちに説明をしながら、窓まで歩き出す。
当然、刃牙の顔面をがっしりと掴んだままだ。
地に足が着かなくなるくらいに持ち上げられた刃牙は為す術もない。
勇次郎の握力でこんなことをやられればたまったもんじゃあるまい。
刃牙、絶体絶命だ。

大擂台賽の時のように刃牙を窓ガラスに押しつける。
当然、亀裂が入る。
壁だって突き破るくらいなのだから、ガラスなんて障子紙同然だろう。
現に障子紙同然にガラスを破壊している。

この光景を見て神職と思しき老人は後光を見る。
よっぽど神々しい光景のようだ。
神々しくはないけど……これも勇次郎の演出なのか?
よく見たらストライダムがライトを使っているかもしれない。

「越えんとする息子」
「越えさせてはならじと父親………………」
「慶ばしきかな……」
「喜ばしきかな……」
「悦ばしきかな……」


あ、やっぱり、嬉しいんだ。
強敵を求めようにも勇次郎にかなう格闘家は世界中を巡っても、まったくと言ってもいいほど見当たらない。
あのオリバでさえ勇次郎には力だけで完敗している。第183話
そんな勇次郎にとって、自分に対抗する可能性を多分に秘めた息子という存在は貴重なのだろう。
種を世界中にばらまくわけですよ。
その話はどこかに消えてしまったけど。

しかし、勇次郎さんや。
刃牙を窓に押しつけてどうする気なんだ?
大擂台賽の時のように突き飛ばすにしても、ここは高層ホテルだ。落ちたら死ぬ。
刃牙だって地下闘技場のてっぺんから落ちれば大ダメージだ。(第160話
さすがに高層ビルからは……

[嬉しむべし!!!]

だが、勇次郎はスケールが違った。
刃牙を窓ガラスから突き出す! さらに自分も飛び降りる!
その発想はなかったというか、なにかんがえてんだ!
推定20階以上からのダイブだ。命綱も何もない。
勇次郎は刃牙の顔を掴んだままだし、鬼のような笑みを浮かべているし、この状況から逃れる気がまったくないことが伺える。

(なにすんのオオオオオオオオ)

勇次郎の暴挙にも等しい行為にはさすがの変態刃牙だってびっくりだ。
飛び降りて致命傷を負った直後にまた飛び降りたことがある刃牙だが、さすがにこれには驚かざるを得なかった。
何せ高さが違う。落下先には硬いコンクリートしかない。
末堂だって戦闘不能になるレベルだ。
……末堂ならこれでなくても戦闘不能になるか。

無理心中の可能性を考えるが、即刻否定する。
勇次郎は自殺から一番遠くにいるタイプ!
でも、対戦相手がいなくて全てが満ち足りた勇次郎は、最終的に自分を喰う思考に至ってしまいそうだ。
孤高の鬼はどう生きることやら。

落下しながら勇次郎は姿勢をコントロールしている。
何のためにか。
勇次郎曰く着地のためだったが、刃牙はまったく理解できていない。
この高さから飛び降りようものなら着地どころではないのは明白だ。
五点着地だってこの状況では無理だ。

そう言われて刃牙は頭を両手で押さえて受け身の姿勢を取る。
着地なんてできっこないから、これが精一杯だった。
そして、車の上に二人は落下する。
いや、着地か?
総理が乗っていたらしい頑丈そうな高級車に落下したのが、一瞬で廃車になってしまった。
斗羽も絶句するに違いない超一流のパフォーマンスだった。

高層ビルからの目標物への着地は可能なのか。
第1空挺団所属の加村秋男(53)、降下回数345回のベテラン曰く、3000メートルからならば60秒間で1000メートルの移動が可能のようだ。
ならば、150メートルあれば十分狙いをつけられる!
勇次郎が姿勢をコントロールしたのも、車に着地するためだったのか?
加えてビルから落下した際に、車両の上に落下することにより絶命を免れたケースがある。
だったらイケるぜ!
……いやいや、NONONO。

常人ならそれでも即死級のエピソードだが、勇次郎はまったくのダメージを負っていなかった。
何事もなかったように立ち上がり、刃牙を放り投げる。
さすが崖に身を投じることで鍛え上げたタフネスを持つ男である。
ビルからの落下程度、ダメージの範疇に入らないのだろう。
地下闘技場最上部から飛び降りただけで死にかけた刃牙とはタフネスの次元が違う。
現在最タフと目されるピクルと並びそうだ。

勇次郎とて高所から落下すれば死ぬんじゃないだろうか。
そう考えていた時期が俺にもありました。
現実は甘くなく、落下程度では勇次郎は死なない。
何もかもがダメージになりそうにない。
正真正銘、本物の怪物だと改めて思い知らされた。

「いつまで甘えている」
「この程度でくたばるタマかッッ」


何という息子信頼……高層ビルからの落下程度、ダメージのうちに入らないのは刃牙も同じと勘定していた。
機動隊とは地球人の範疇である彼らはどの程度なんだと困惑する。
そういえば、刃牙とジャックの戦いも壮絶な打撃戦さえもウォーミングアップに過ぎなかった。
範馬一族の戦いはいつだって規格外である。

勇次郎の指摘通り、刃牙もピクルとの激闘を乗り越えて成長したのか(千春の件は忘れておく)、
これだけの落下を体験しても出血のひとつもない。
愛しの勇次郎との決戦を迎えてエンドルフィンがダダ漏れなのか?
刃牙はよくわからないタフネスの持ち主だ。
強さが絶対的なものじゃなくて相手によって変わる相対的なものだから扱いに困るし、大物食いを多発させるので恐ろしい。

「起こしてよ………」
「動けないんだ…………」
「起こしてよ」


ジャケットを脱ぎ捨て戦闘モードに入った勇次郎に対し、地に伏せたままで刃牙は減らず口を叩く。
普通なら構わず追い打ちをするところだが、これは躾だ。
試合における最適解を選ぶ必要はない。
そもそも選ぶまでもない実力差がある。

そんなわけで勇次郎は左手を差し出し、刃牙を起き上がらせる。
本当に起こしちゃうの!?
範馬一族の戦いはただでさえ難しい。
いきなり郭海皇を車椅子に乗せて歩き出したりする。

その範馬一族と範馬一族の戦いとなるとなおさらのものでその難しさたるや並大抵のものではない。
何があってもおかしくはない。
コミックス1巻分に渡る(あまり本筋とは関係のない)回想を始めることもあるだろう。
刃牙がいきなりワイクーを踊り出す可能性さえも否定できない。

二人は左手で握手をする形になる。
決裂の意味があるマナー的に失礼な左手の握手だ。
作法を知るだけに勇次郎の演出は細かい。

と、同時に刃牙は掌底を勇次郎の頬に放つ。
掌底と言うよりもビンタの方が形容としては正しい一撃だった。
不意打ちの形だったからか、あの勇次郎に命中した。
まさか起き上がらせたと思ったら、今度は不意打ちだ。
正々堂々なのか何でもありなのか、よくわからない。
本当にこいつらの駆け引きは難しい。

不意打ちに成功した刃牙だったが、大量の冷や汗を流す。
バキ世界において、攻撃を当てた側が不利になるのはままあることである。
ムエタイなんてどんな攻撃を当てても、決して有利にあることはないだろうと断言できる。
あと本部。

さて、この時に勇次郎を叩いた刃牙がイメージしたもの……
それは身長の5倍ほどもある巨大な岩だった。
風雨に晒された悠久の時を過ごし、丸みを帯びた岩にゴムを重ねたような感触……
つまり、松尾象山と梶原のコラボレーションだ!
勇次郎のタフネスがよくわか……ごめん、梶原は本気でいらなかった。

勇次郎の感触は想像を絶するほどにあまりに大きなものだった。
こんな相手に不意打ちの平手など効くはずもなく、勇次郎は怒りの形相を浮かべる。
血管が浮き上がっているぞ!
いや、勇次郎にとっていつものことか。
喜怒怒怒みたいな感情の持ち主だし。

「こ…………の…………」
「無礼者がッッッ」


仕返しとばかりに勇次郎の平手が刃牙を襲った。
刃牙が首が吹っ飛んでしまったのかと本気で心配してしまうような豪快な平手であった。
刃牙のとは威力が違う。力みが違う。
まさに別次元の平手だ。

刃牙の首は吹き飛ばなかったが、身体全体は吹き飛んでホテルのフロントに突っ込む。
窓を突き破ってホテルを出て行き、今再び窓を突き破って入場した。
範馬一族の戦いには破壊がつきものだ。
こいつらがそもそも破壊の権化みたいなものなのだが。

ともあれ、器物破損は確定だ。
機動隊が勇次郎を囲む!
一睨みされるだけで背中を向けて逃げ出した!
プロが背中を向けて逃げ出すほどの迫力が今の勇次郎にはあった。
もう勇次郎は誰にも止められない。
総理の勘も何の意味も為していない。

勇次郎はガラスを前にただ歩いて壊して通過する。
さすが、ピクルの檻代わりのアクリルガラスをぶち抜いた男だ。
全身そのものが力だ。
勇次郎の周囲は歪んでいるし、かなりの力場が発生していそうだ。
やっぱり、地震の原因は勇次郎なのか?

「小僧っ子の分際で」
「急所を外した平手打ち」


勇次郎が激怒している理由は、刃牙の平手打ちが急所を外していたからだった。
いや、怒るところがそこなのかよ!
範馬一族は気難しい。
急所をきっちり狙わないと論外なのか……

手加減されて怒る。
そういえば、刃牙もピクルに同じ理由でキレていた。(第161話
何だかんだで似た者親子であった。
でも、怒気満々の勇次郎と完全放心状態の刃牙じゃ天と地の差があるな。
何だかんだで似ていない親子なのかも。

範馬家の家訓はまず急所を狙うことなのだろうか。
人中を穿て。
鼓膜を破れ。
睾丸を潰せ。
ムエタイを喰え。
そんな家訓が存在しているのかもしれない。
主に3つ目と4つ目が頻繁に実行されております。

「この勇次郎に」
「手心をくわえたそのツケ…」
「高くつく」


勇次郎は刃牙の頬をつねった!
勇次郎の握力でつねられると肉がちぎれそうになるだけの痛みがあることだろう。
というか、現に花山がスペックをつねった時は肉がちぎれていた。
ならば、勇次郎も同じことが……

刃牙は本気で痛がっている。
勇次郎のつねりの破壊力はマゾである刃牙にとってもキツいようだ。
いや、あるいは快感を感じちゃったりして。
刃牙は今がチャンスだ!

勇次郎はあくまでもお仕置きというスタンスを崩していない。
勇次郎も急所を狙っていない。落下の際に刃牙に声をかけた。
手心を加えたと刃牙に突っ込みながらも、勇次郎こそ刃牙に手心を加えている。
自分は手加減しても相手は手加減するなということだろうか。
この理不尽さ……まさに範馬親子だ。

しかし、刃牙にいいところがないままだ。
今回も放心してばかりだ。
別の意味で刃牙らしいとも言えるが。
でも、曖昧な状態の刃牙は何となく危険だ。
勇次郎も金的に気を付けておいた方が良いか?
次回へ続く。


範馬親子の激闘はとんでもないことになってきた。
いつの間にやら始まった親子対決だが、バキ世界最高クラスの実力者だけあって派手な戦いになっている。
まさか飛び降りるとは思わなんだ。
刃牙はピクルとの戦いで2回飛び降りておいて予行練習なったのかも知れないな……

勇次郎は嫌になるくらいの実力差を刃牙に見せつけている。
本部なら一番最初に吹き飛ばされた瞬間に宙を舞って死んでいるところだ。
それを考えるとギリギリ耐え凌いでいる刃牙はさすがと言えよう。
妙に放心しているけど。

今はお互いに親子喧嘩のスタンスでやり合っている。
勇次郎はそのスタンスを自分はやるけど、お前がやるのは許さんと言わんばかりだ。
このワガママめ。
親子喧嘩でこのスケールなのだから、本腰を入れ始めるとホテルが倒壊しかねない。
機動隊よりも救助隊を配備した方が良かったかも。

場所に囚われないアンチェインな範馬親子であった。
もう公衆の場であることを完全無視だ。
刃牙だってパンツを破いても何の不思議もない。
むしろ、自然! むしろ、あり!

親子喧嘩から闘争にシフトした時が本番……
だとは思うが、何かその前に勇次郎にやられてしまいそうで怖い。
いきなりピクルが乱入して、地上最強VS史上最強の決戦が始まったりして。
刃牙はそれに割り込もうとして、勇次郎に彼方へ飛ばされる。
ままある話だ。

さて、今回は板垣先生とケンドーコバヤシの座談会があった。
裏話もあり、その中で面白いのはJr.のエピソードだ。

ケンドーコバヤシ
「中には救いのないヤツもいますけど……。マホメド・アライJr.は哀しい存在でしたね」

板垣
「あれはね、頑張ってキャラ立ててきたんだけどやはりレギュラーにはかなわないなと」
「ジャックと向かい合ったシーンを描いた瞬間、“どうやってもオマエではジャックには勝てない”とわかってしまった
 打ち合わせの段階では、試合の結果は真逆になる予定だったんです」

Jr.の凋落はその場の思いつきだったらしい。
そういえば、ジャックはJr.のパンチをテンプルに食らって腰を落としていた。
あの段階ではJr.が勝つ流れだったということか。
その次の週にはあっさりと形成逆転するわけだけど、それはこんな流れがあったからのようだ。

今の板垣先生は打ち合わせをしていない。
フリーダムかつノープランで刃牙と勇次郎の対決は進む。
バキにおいて打ち合わせがどれほどの意味を為していたのかなんて怪しいにもほどがあるが。
超展開なんてよくある話だ。

しかし、水を差すようだけど第2回最大トーナメント(仮)と烈ボクシング編は完全放置なのだろうか?
まぁ、放置なんだろうな。
何も考えない板垣先生がそんな小事にこだわるわけがない。
刃牙と勇次郎の決戦は全てを投げ捨てた捨て身のカーニバルなのだ!
祭りの真っ最中も後始末も、いずれからも目を離せそうにない。



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