刃牙道感想 第94話「戦士(ウォリアー)」



最大トーナメント1回戦負けの本部が準優勝のジャックを翻弄する!
本部が強くなるということは激やせしていた男が、薬を飲んだだけでムキムキになるくらいにおかしい。
だが、おかしいことと言えど事実として通っているのならば受け止めざるをえまい。
例えそれが20年続いた常識と言えど……

ジャックは上着を破り捨てる。
全身の力を使っても横綱の小指に敵わなかった本部にはできないであろう力技だ。
こりゃベルト程度じゃ拘束できそうにないな。

この力技をまるでパフォーマンスと言わんばかりに冷めた目線で見る本部だった。
あ、違うって。
こういう時のアンタは「人間じゃねェ……」と言いながら冷や汗を流すのが正解なんだよ!

武器を使えば強いというのは、百歩というか兆歩譲ってわかるのだが、妙に落ち着いた態度が気に食わん。
アンタ、事あるごとに焦っていたやん。
フットワークでかきまわせと支持したり、ウォームアップもしないことを怒る人やん!
「確カニナ…………」
「アノ本部デハナイ」


ジャックの脳裏に浮かぶのは胴着姿で地下闘技場に立つ本部だ。
うん、みんな、思い浮かぶのはこの本部ですよな。
本部と言えば独歩を1分で殺すと豪語しながらも横綱に惨敗したイマイチな人だ。
というか、ジャックはあの試合を見ていたんだ。
茶番だと思って見ていただろうし、事実ボロ負けしたからこの男は無価値とも判断しただろうて。

「競技者ト言ウヨリ――」「戦士ウォリアー……」
「ヨク訓練サレタ戦士ウォリアーノヨウダ」


だが、普段着の本部は違う!
公園の本部は違う!
武器を持った本部は違う!
競技者ではなく戦士!
読者のイメージとしては戦士とか競技者とかじゃなく、解説家だったのだが今の本部は戦士認定が出た。
気難しいジャックに認められたのなら本部は本物……本物なのか?
今でも信じられない。このネタで何回引っ張るんだって感じだが、やっぱり認められない。

「競技者ヲ嘗メテモラッテハ困ル」

だが、ジャックには競技者としての意地があった。
って、自分で自分のことをスポーツマンって認めるなよ!?
売り言葉に買い言葉……いや、自分で言った言葉に自分で言い返した感はあるが、それはちょっと……
ジャックは噛み付きありドーピングありのルール無用ファイターだ。
スポーツマンとは程遠いと思うのだが……

が、ジャックはドーピングをやり始めた時にウェイトリフティングや100m走で数字を出して自分の強さを確かめていた。
少なくとも博士の世話になっている間はずっとのようだ。
ジャックは数字に囚われない人間が多いバキ世界において、珍しく数字を気に掛けている人間かもしれない。 今だって身長という数字で自分のパワーアップを示している。

その点を考えると言う通りに競技者なのか?
でも、やっていることは全然競技じゃないし……
本部に翻弄されて調子を崩されたか?
それに対し本部は鍛え込まれた競技者は武術家にとっても脅威だと語る。
大半の武術家は圧倒的な体力差に押し切られる!
とはいえ、バキ世界は基本的には競技者のステータスは低く、武術家のステータスは高い。
そのような光景はなかなか見られないのが実情だ。
ロジャー・ハーロンが渋川先生に勝てましたか?
タクタロフが烈に勝てましたか?

が、少ないとは言えど競技者が武術家を倒す下克上も存在する。
Jr.が独歩と渋川先生を倒したように!
金竜山が本部を倒したように!
……何か互いに墓穴を掘り合ってんなー。

ドッ

と、本部が得意げに語っているとジャックが蹴った!
2m43cmをフル活用した長大なリーチを活かした強力な蹴りである。
その凄まじいパワーによって本部は吹っ飛ぶ。
ピクルの蹴りのように人が数m飛ぶ非現実的な光景である。

最大トーナメントの時の本部ならこれで勝負ありだ。
だが、今の本部は普段着で公園で武器ありだ。
ジャックの蹴りにクナイを合わせて足の甲に突き刺していた。
根元まで突き刺さるクリーンヒットである。
これは痛い。非常に痛い。

本部は全身の力を叩き付けたドロップキックでもジャックに一切のダメージを与えられなかった。
また、普通に武器を持って襲いかかってもリーチの差から有効打にはなりがたいだろう。
そのため、ジャックの蹴りの力を利用しカウンターの形でダメージを与えた。
加えるなら筋肉のない足の甲を狙っている点も嫌らしい。
木刀でスネを叩いても痛がるくらいで、骨が折れたり肉が千切れないくらいにはジャックの肉体は強靱である。
本部は最低限の力でジャックの急所を突きダメージを与えた。
まさに老獪の一言である。
だからとてジャックの蹴りを受けて本部が意識を保っているのは疑問ではあるが。

競技者ならこの時点で音を上げるダメージだ。
足には縦ではなく横に刺さっているから骨が丸ごと断たれたのは間違いない。
だが、ジャックはクナイを抜き取って向かい合う。
競技者というよりも戦士であった。

本部はジャックの2m43cm201kgという規格外の身体能力を評価する。
(この辺の数字を押さえている辺りが解説家の所以か)
並みの武術家では手も足もどころか武器も出せないと語る。
なさけむようの死刑囚も何もできなかった。
本部だって何もできないのが道理だ。

「幸か不幸か――――――」
「俺は並じゃないがね」


並どころか下の方に位置するのが今までの本部だった。
加藤と花田、あと末堂と並んで驚き役四天王みたいな立ち位置が似合っていた。
だが、今は間違いなく上の上のジャックを相手に互角に渡り合っている。
本人の言葉通り、本部以蔵は並ではない。
普段着にはどうやら全能力値上昇のバフ効果、あるいは相手の全能力値減少のデバフ効果があるようだ。

口の減らない本部に対してジャックは連載史上初の踵落としを行う。
ダイナミックな攻撃を好むジャックではあるが、踵落としみたいな凝った技は珍しい。
ただ身長を伸ばすだけでなく、その身長を活かす技を身に付けていたようだ。
さすがは渋川流を使いピクルタックルを逸らすほどの天性を持つ男であった。

その踵落としを本部は受け止める。
大振りな技だからか、ガードすることそのものは苦ではないだろう。
だが、ジャックの超パワーを受け止めきれるか?
今までの本部ならプチッと潰される。
プチプチのように潰される。
プチプチの正式名称は気泡緩衝材だ(豆知識)

だが、シット!
本部は短刀で踵落としを受け止めていた!
これは痛い。本当に痛い。
またもジャックのパワーを逆手に取った嫌らしい受けだ。
これではジャック範馬選手、自分で自分の足を斬ったようなものです!

「さすがだよジャック さすがの骨密度だ」
「まずは間違いなく―――」
「切断だと思ったぜ………」


さすが、柳の毒手を無遠慮に切断した男。
ジャックの足も切断する気でいたらしい。
守護る気が一切見られない。
守護るとは一体……本部語は難しすぎますがな……

本部の武器術に翻弄されるジャックではあるが、そのフィジカルは武器に負けないだけの強さを持っていた。
短刀に思い切り踵落とししても骨は断てないのだ。
だが、骨は断てずともアキレス腱は断裂したのは間違いないだろう。

10年以上を経て渋川先生のアキレス腱を噛み千切った意趣返しを受けるのだった。
それが渋川先生の関係者(と言えなくもなさそうで、流派的な直接の繋がりはないから自称関係者程度だよね)の本部にやられるのは何という皮肉か……
これは10年以上を経た渋川先生の弔い合戦だったりするのか?
だから、守護る気がないのか?
ジャックには勘弁して欲しいダメージが延々と続く。
これは心が折れる。
如何に本部が1回戦負けとはいえ、これはやりすぎだろうて。
ジャックを守護るという意味ではもう達成しているかもしれない。
何せこれだけのダメージを受ければ武蔵との戦いは当分できない。
大金星ですよ。
あとダメージを与える原理は納得したが、ダメージを受けていない原理を解説してくれ。

だが、ジャックは顎と歯をボロボロに砕かれても無意識下で闘争を選択する男だ。
例えアキレス腱を切られても本部への攻撃は止めない。
ジャックの十八番、噛み付きの炸裂だ!
本部の肩に噛み付いた。ジャックならば一瞬で噛みちぎるに違いない。

だが、上着の上から噛んでいるのがちょっと厄い。
かつて勇次郎に頸動脈を噛み千切られた時に受けたアドバイスが、衣服の上から噛む時は布を吟味しろというものだった。
急激に引き抜かれれば前歯を根こそぎ持って行かれるぞ!
これは餓狼伝で実践し前歯全てを抜き取っている。

幸いにして本部の普段着は厚手のものではない。
だが、油断はできない。
何せ普段着の本部は武蔵の素手斬撃を受けても切れなかった。
勇次郎の肉体を切り裂くほどの一撃であったのにも関わらずだ。
ただの普段着ではなく、アーマード普段着の可能性だってある。
ジャック、またも墓穴を掘るか……?

また、本部は右手に短刀を持ったままだ。
零距離ならジャックを突き放題である。 勇次郎とて刃物で斬れば切れるのが刃牙道の摂理だ。
腹でも刺されればかなりキツい。
そして、それで得られるのは本部の肩を食いちぎるとリスクとリターンが噛み合っていない。

そもそも骨延長による長大なリーチが今のジャックの強みのはずだ。
が、噛み付きのために自分から零距離に踏み込んでいる。
今の本部は仕込み武器たくさんだから零距離は危険だぞ。
なので、またも墓穴臭いのですが……
ジャックの今後に不安がのしかかったまま、次回へ続く。


本部が強い! ……のか?
とりあえず、ジャックの打撃を武器越しとはいえ2度受けて平気な顔をしているのは今までにないタフさだ。
何でこの人、金竜山に負けたんだろう。
並以下の武術家だったからか?

ジャックは自らの攻撃でダメージを受けてしまっている。
なので、どうもペースを掴めていない感じだ。
そこで繰り出したのは最大の個性である噛み付きだが、それさえも本部の罠臭い。
リーチとパワーを活かして小技を重ねればそれだけで本部に大ダメージが蓄積しそうなのだが……
良くも悪くもダイナミックなジャックの戦い方は、卑怯卑劣悪辣な本部と相性が悪いのかもしれない。

前回、本部が木刀でジャックを叩いたのはこれが真剣だったら勝負ありというメッセージかと思った。
何て思っていたら堂々と刃物を使い始めた。
名実共に殺す気満々で守護る気一切なしだ。

ジャックと本部は衆人環視の前で戦っている。
ここで難しいのはルールに守られていないことで、相手を殺してしまえばそのまま逮捕となる。
ルールに守られていたはずの武蔵も一応程度ではあるけど逮捕されちゃったし。
なので、本部が武器を使えても刃物はなく、木刀程度かと思っていた。
いくら不意を突けてもジャックのパワーには敵わない。
そう考えていた時期が俺にもありました。

だが、本部は遠慮なく刃物を使って戦っている。
逮捕とかまるで考えていない。
そうなるとジャックもやりにくくなる。
ジャックのある意味では無防備な一撃の数々はこうした武器を使わないという前提があったかもしれない。
一切勝ち方を選ばず勝ちに行く本部はある意味ではジャック以上に明日を捨てている。

今回、本部は刃物を使った。
つまり、前回の煙草の代わりにクナイを投げることもできたし、木刀の代わりに短刀で切ることもできたのだ。
それをやらなかったのはジャックの実力を見極めるためだったからか。
まずは煙草でジャックの不意打ち耐性を調べる。
不意打ちは有効なので機先を制して行けた。
次にドロップキックでジャックのタフネスさと自分の素手が通じるかを確かめた。
これによって金竜山以上のタフネスに素手がまったく通じないことがわかる。
そして、木刀で攻撃力を上げて叩いてみた。
こちらでは木刀では無力化させることはできず、木刀で戦いを続ければ泥仕合になるとわかったのだろう。

いくら刃物を使うと言えど警戒されている状態では斬りかかってもリーチの差から有効ではないし、下手な攻撃はジャックのタフネスの前には通じない。
なので、ジャックの攻撃力を活かして自爆させる戦法を選んだ。
本部は慎重かつ狡猾に相手の戦力を探りながら戦っている。 それは肉体任せの範馬一族にはないものだ。
この卑怯さが伴った慎重さこそ並ではない武術家の真骨頂か。

対するジャックはとにかく全力投球である。
これが武器のない試合なら圧倒的フィジカルで圧倒できるが、一撃が致命傷になる可能性のある武器のある戦いではあまりにも不用心すぎる。
その不用心さがいくつものダメージを生んでいる。
競技者と武術家の違いが表れた形となった。

本部が強いのはおかしいが戦い方そのものは理に適っている。
本部は範馬一族の理不尽を理の力で覆していく気なのだろうか。
だが、それでアンタが勝てば理解はできるが納得はできない。
そんなしこりの残る勝ち方では二流だ。
並ではない武術家を自称するのならば理解と納得の双方を満たせ!
あ、金竜山に負けたのは理解も納得も満たしたぐうの音も出ない負け方でした!


おまけ
史上最強の哲学入門を執筆した飲茶氏が板垣先生と食事をした!
面白い話がいくつか出ていたのでピックアップしたい。

いるのかよ、娘!?
というか、世界中にバラまいた種設定はどうした!?

読者全員が爆笑したあのシーン、実は熟考の末に生み出されたもののようで。
最近の本部がやたら強いのも熟考の末によるものかも……?