刃牙道感想 第69話「300点」



本部が世界観を壊すと言っている!
本部 is 弱者。
動かぬ真理にして絶対不動の法則である。
柳相手に勝つくらいならギリギリ許されるが刃牙に語れると真剣に困る。 世界を守れ、刃牙! 今回ばかりは応援するぞ!


「誰を守るって?」「本部さん」

激おこぷんぷん丸な刃牙であった。
そりゃ本部に守護られるとか言われればな。
強者としての人生を歩んできた男が弱者代表に保護される……
耐えがたい屈辱だろう。

読者としても範馬刃牙という男は実に扱いの困る男だが、それでも本部に守護られるような不甲斐なさは求めていない。
悪役は強者に負けることは許されるが弱者に負けることは求められていない。
ヒールは強いからこそのヒールなのだ。

「君ら現代格闘士は」「まるで理解わかってな」

「本部さん」
「いったい誰を守るのかって訊いている」「その肉体からだでッその技術わざでッ」


刃牙が本部の解説を遮った!
本部の存在意義は戦場いくさばにあらず。
観客席での解説にあり。
それさえも許さないほど今の刃牙は激怒している。 本部の存在意義を殺す勢いだ。
激おこぷんぷん丸どころかムカ着火ファイヤーですな。

刃牙視点からすると本部は肉体も技術もいまいちのようだ。
まぁ、いまいちですな。
肉体は金竜山にさえ大敗し、技術も渋川先生や郭海皇には遠く及ばない。
そして、刃牙は肉体と技術の双方で本部を凌駕している。
負けているのは解説くらいだ。
「自分より遙かに弱いおっさんが」「何をハネっ返ってるんだと」

「ちょっと違うけど…」
「いいやそれで」


アー! やっぱり弱いんだ、本部!
本部は結果が伴っていないだけで、作中人物からの評価はグラップラー刃牙第1巻くらいから変わらないと可能性があると思っていた。
未だに独歩を1分で殺せるほどのものだと。
実行に移していないだけだと。
だが、無情にも弱いと思われているようだ。
本部は保護されていない!
「本部以蔵だからではない」
「誰であれ許さねェよ」「俺を守護まもることは許さねェ」


あ、刃牙のこの台詞は普通にカッコイイ。
刃牙はどこまでの不遜なれど、不遜だからこそのプライドがある。 そのプライドが本部だけでなく誰かに守護られることを拒絶するのだろう。
これに関しては有言実行であり、ピクルや勇次郎、それに武蔵と言った危険地帯に自分から突っ込んでいった。
突っ込んだ結果、悲惨な目に遭うことも多いのだが、そこに関してはずっとブレていないのが範馬刃牙である。

本部は烈を一刀両断したことを述懐する。
その様子を刃牙は嬉しそうと形容した。
刃牙は人格的にはいろいろとアレだが、烈には尊敬の意を持って付き合っていた。 烈への感情に嘘はないのだ。
そんな烈が斬られたことを嬉しそうに語られればカム着火インフェルノォォォォオオウになっても誰が責められようか。

「烈 海王の死――――」「それ自体は悲しむべきこと 疑いようもない」

ああ……本編中でも言及されてしまった……
ついに烈の死が完全に確定してしまった。 烈海王の長い歴史に終止符が打たれてしまった。
みっちゃんの悲しみようを見るにクローン復活はないだろうし、されても困ってしまう。
これからのバキには烈はいない……

そんな烈の死があっても武の到達点を見ることができた。
それに喜びを感じてしまうのは武道家の本能でもあった。
刃牙としては理解し難い感情かもしれない。
何せ戦う動機のほぼ全てが勇次郎に寄っている。
刃牙にとって武も勇次郎に勝つための過程に過ぎないのだ。
それ故に今の刃牙のモチベーションとなっているものが何なのか、どうもわからぬのであった。

「残念なことだが」「まだ我々は全力の宮本武蔵を見てはいない」

と、全力でなかったと本部は評価する。
烈戦での武蔵は正直不甲斐ない部分も多かった。
一発が死に直結する戦いを生き抜いてきたというのに、烈の攻撃を幾度も受けてしまっている。
それは全力ではないからであり、加えて現代の闘争術を体験しておきたかったのだと本部は語る。 恐ろしいまでに武蔵推しですな、こやつ。
バキ世界における武蔵信仰は根強く根深いし、最初期のキャラである本部が武蔵を信仰するのも道理か。

「手こずったわけではないと?」

「実力者ではある」「ただし不覚を取る相手ではないと」

刃牙、またも怒る。
死んだ友の実力を大したことないと言われれば怒るというものである。
本部の指摘はもっともかもしれないし、客観的な意見でもある。
だが、烈の友である刃牙としてはこれっぽっちも面白くなく、実に不愉快な言葉でもある。

そう思うと刃牙が本部に教授を受けようと思った理由もわからなくもない。
刃牙は一刻も早く烈の仇を討ちたいのだ。
そのためには範馬刃牙の型を完成させることを保留にし、あの本部からも学ぼうとした。
本部を訪れたのは必死の表れなのだ。 そこまで必死なのに上から目線で守護るだの烈はいまいちだの言われれば怒る。そりゃ怒る。
刃牙自身も上から目線だけど。

「だからこそだ」
「わたしには君らを守護まもる義務がある」


うむ、その理屈がわからんのですよ。
烈ほどの実力者でさえ武蔵には完敗した。
だから、本部が守護る!
その前提としては武蔵に対抗できるほどの力量が必要だ。 だからこそ、本部の守護る発言が2010年度最大級の迷言となってしまっている。

そんな本部の世迷い言についに刃牙が立ち上がる。
あぐらのまま、飛び上がることで高い身体能力をアピールだ。
本部とは違うんだよ、本部とは。
そして、本部を見下ろす。もとい見下す。
対する本部も立ち上がる。
刃牙のようにアクロバチックではなくもっそりと立ち上がる。

「範馬刃牙の徒手素手は」「如何ほどのものか」
「100点満点中の100………」
「否……120点だって付けられる」


刃牙の実力は120点! 高いのか低いのかよくわからんが、何にせよオーバースペックには間違いないようだ。
だが、本部はその上で「たかが」と形容する。
120点をたかがとくくれる本部の自己採点は如何に!

「60点?」「70点……_?」
「どう甘めに採点しても」「80点は越えねェ」


本部、低ッ! いや、高ッ!!
アンタ、80点かよ……
刃牙の7割ほどとは過大評価にもほどがあるんじゃないでしょうか、押忍。
読者からすれば40点、いや30点のような……

「ところがだ」
「剣」「槍」「じょう」「鎌」「縄」
「忍に至るまで……」
「全て合わせりゃ300点は下らねェ」


えー!? さっきから何なの、この人!?
全ての武器を合わせれば300点! 刃牙の3倍!
あらゆるスキルを足し算すればということか?
でも、全部の武器を同時に使えるわけじゃありませんよ。
武装を積めば積むほど強くなれるわけではないことは、ガンダムシリーズで何度も実証されたであろうが。

そんなことを言われた刃牙は笑う。
凄く範馬一族的に笑う。
こりゃ、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームな笑いだ。
同じことを勇次郎が言われても同じ笑いを浮かべるであろう。
そして、雑魚狩りを楽しむのも範馬一族である。 こりゃ容赦する気ナッシングだな。

「全部使用つかったらいい」
「計算違いを思い知らせる」


刃牙は武器を使わないが武器との戦いを幾度も潜り抜けてきた。 ガイアたちに死刑囚と武器を躊躇わず使う相手との戦いを潜り抜けてきた。
帯刀した武蔵にはまだ敵わないかもしれないが、300点本部に遅れを取る道理はない。
というか、取られたら困る。
95万パワーが1億パワーに勝つようなものだ。
強さの指標が意味を為さなくなってしまう。

刃牙は踏み込もうとする。
本気を出してゴキブリダッシュをするかもしれない。
だが、その瞬間、煙玉!
突っ込む気満々な刃牙は思わず狼狽えてしまう。

「御明算かな……?」

と、煙幕に怯んだ隙に本部は刃牙の背後に回り込み、無防備な後頭部に短刀を突きつけていた。 ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!? 本部が刃牙に勝っちゃった!?
寸止めではあるが、誰の目から見ても明らかな敗北である。
やってしまった。本部は武器を持てば300点で刃牙よりも強い。
諸々の法則の全てが崩れ去った瞬間である。

だが、刃牙がただ簡単に本部に敗れるなんてことがあろうか。
やっぱり、油断だろうか。油断だな。
本部が一矢報いることなど誰も予想も想像もしていない。 刃牙もサボって0.5秒の先読みを発動させなかったことだろう。
事前に刃牙の神経を逆なでする言動をして判断力を鈍らせたかもしれない。
本部は老獪な駆け引きで刃牙から一本取っている。
お、恐ろしい……完全に強者のやることだぞ、これ……本部のやることじゃない……

本部はおかしくなったが強くもなっていた。
棒切れ持って山ごもりした甲斐があった。
しかし、あまり喜べない。
本部が強いのは面白いが刃牙にまで勝つと世界観が壊れてしまう。
武蔵が蘇り、烈が死に、本部が壊れた。
バキ連載史上でもっともカオスな世界が生まれつつあった。 次回へ続く。


本部が刃牙に勝ってしまった。
グラップラー刃牙第4巻かな?
もはや大金星というレベルではない。
宇宙の法則をねじ曲げてしまった。

本部が刃牙から一本を取れたのにはいくつか理由がある。
前述したように油断を突きさらに逆上させたからだろう。
だからとて、本部に勝たれると困る。
アンタは白目剥いて気絶している方が似合っている。

こんな負けをすれば刃牙は廃人になりかねない。
勇次郎もキレかねない。
となると、本部は勇次郎に狙われるのか?
本部、自己を守護れ! 3度目の敗北をすることになるぞ!
これで300点だからと勇次郎相手に善戦すれば、いよいよもってバキ世界は崩壊していくかもしれない。

しかし、これじゃ本部は守護者というより破壊者だ。
世界観を破壊しまくっている。
よもや本部がこれほどの存在になろうとは……
武蔵を倒すよりも本部を倒すことを考えた方がいいやもしれぬ。
世界を壊す本部がいる……




刃牙道(6) (少年チャンピオン・コミックス)