刃牙道感想 第48話「超越(こえ)てゆきねェな」



本部が中国四千年に異議を唱えた。
本部以蔵51歳、灼熱の時――
何というか、初期本部の芸風が戻ってきた感じですな。
しかし、あれは「強そうなことを言っているし実際に強そう」のボケに対して「実は弱い」というのがオチになっているのですが。
「強そうなことを言っているけど実は弱い」とボケとオチがそのまま繋がっちゃったらただのピエロだよ。

さて、本部は少し置いておいてみっちゃんが武蔵にどうやったらこの長い刀を抜けるのかを聞いている。
博識と本部に褒められたけどこういうことも知らんのかい。
いや、最強の剣豪はどう剣を振るのか、秘訣みたいなのを聞いてみたい気持ちはわかるのだが。

その秘訣は腰を切って抜くことにあった。
抜拳術と同じですな。
この腰で抜く抜刀によって羽毛を一文字に切るのだった。
たしかにこの斬撃を相手に消力で対抗するというのは博打にもほどがあるな……

「烈さん」
「アンタそんな――――」
「曲芸まがいの軽業で」「本気で宮本武蔵の剣を封じられるつもりか」


さて、みんな大好き本部である。
高級技消力を曲芸と申したか。 何か烈以上に本部の命の炎が消え入りそうなのですが……

たしかに斬撃相手に消力というのは不安だとわかりますよ。
でも、消力は勇次郎の打撃も無力化できるほどだ。
ただの曲芸じゃございませんよ。
本部、早速見誤る。

「これこれ」
「日本の旧きスタイルを重んじる武のお人よ」


約100歳年下の若造の暴言に対し、郭海皇は笑顔で対応する。
笑顔が怖い登場人物トップ3に入る男が暴言に対し笑っているのだ。
もうダメだよ。ただで済まないよ、本部さん。
ギャルゲーにも怒るとむしろ笑う人っているじゃない。
そういう人って一番怖い立ち位置じゃない。
もうダメだ! 神心会の門下生を一蹴した時点からやり直そう!

(一瞥で本部氏の流儀を……ッッ)

何やかんやでちょっと的外れな対策をしてあまり頼れない感が漂っている郭海皇だが、克巳は的確なタイミングで驚いて持ち上げる。 何と見事な驚愕!
片腕を失えど精神的に成長し格闘家として成長し続ける克巳であったが、驚くべきことに驚くべき人としても成長していたとは!

ともあれ、本部の素性を一目で見切った郭海皇である。
さすがだ。
いや、本部程度見切っても何になるのか。 あと本部の流儀ってアレですよね。解説。
本部はここで「耄碌したな海皇さん」とか言えば安心して殺される。
「わたしが与えた「消力完成」のおスミ付き」「異議を唱えるおつもりか…?」
「ん………?」


表情は笑っていますが、目は全然まったく笑っておりません。
秘伝を他流派に教えたりといい人そうに見えますが全然そんなことありません。
いい人はムエタイ人のパンツを降ろしてポコチンにデコピンをしない。 例え相手が本部であろうとパンツズリ降ろしてポコピンする迫力を漂わせる。
本部がそんなことされたら白目剥いてこの歳になって今更宦官になっちゃうぜ。

「ムリもねぇか…」
「中国だもんなァ……」
「戦国の武をワカっちゃいねェ」


そんな逸物の危機を前にも本部は持説を曲げない。
というか、己の存在を張り通そうとする。
大型トラックにぶちかましをするような無謀だ。
止めとけよ……死ぬぜ……

戦国時代は対峙することが死に直結したと本部は言う。
如何に水準の低い立ち合い――本部と誰かの試合のように――でも、敗北すれば命を奪われることに変わりはなかった。

だが、それは中国でも変わらないのではなかろうか。
戦国時代と時を同じくする明の時代でも戦争は起きていたし、命のやりとりだってしている。
もっとも中国では一騎打ちが日本よりも大分少ないようなので、一対一の命のやりとりにおける駆け引きは日本の方が進化しているかもしれない。
武蔵の駆け引きもこうした状況によって鍛え上げられたものだろう。

これは日本で言う武士が中国には存在しなかったことも影響しているか。
中国の武士とはいわば軍人に近く、時の公的機関から訓練を受けた公務員のようなものだ。
対して日本の武士はそれぞれの武家が独自に磨いた武芸を身に付けた者を指す。
時の公的機関は武家を公的に認めはすれど、それぞれの技術体系に直接的な干渉をしていたわけではないのだ。

結果、中国武術は大勢の人間に共通の技術を教授する過程で技術の洗練やは幾度か行われど、やや画一的な技術体系になってしまった可能性はある。
大擂台賽には様々な中国武術が現れたが、技術体系が根底から異なるものはなかった。
対して日本の武術は流派が分化した結果、技術の洗練はさほど行われなかったのだが、環境や人間に合わせて技術体系が特化したかもしれない。
伝える人間を限られた者にしたからこそ、門外不出の秘伝が生み出されたことだろう。
結果、流派の文化と合わせて多様な技術体系が形成され、また武蔵のようにガラパゴスなれど純度の高い武術を用いる人間がいたのか。

なお、これらの記述は事実を参照にしましたがけっこうな推測が入っているので、あくまでも作文程度に捉えてくださいませ。
細かくはこの辺の事情に聡いであろうとらさんにお任せいたします……

「勝ったり負けたりを繰り返せる近代格闘技とは」「まるで次元が違う」
三寸切り込めば人は死ぬ。
最低限で勝利に繋がるからこそ、最小限のリスクで戦うようになる。
武蔵が戦う前に相手を煽って精神を乱すのはこうした戦いを潜り抜けてきたからだろう。
こうした土台で戦えばたしかに烈に勝ち目は薄い。

とはいえ、だからと現代格闘技が劣っているとも思えない。
あくまでもルールの違いとそれによる発展の違いだ。
例えば麻雀で例えるなら(麻雀を知らない人には申し訳ない)持ち点25000点の普通の麻雀と持ち点2500点でロン和了りのみの変則麻雀を比べるようなものだ。
前者なら高い和了りを目指してリーチしたり、相手がリーチしてもこちらの手が良いようならリスク覚悟で突っぱねる。

だが、後者の場合は1回でも振ってしまえばそこで勝負ありだ。
なので、相手がリーチしたら即降りほぼ確定だ。
そもそも1回のロンでまず勝てるのだからリーチする必要もなくヤミテン中心になる。

同じ麻雀でも両者の駆け引きはまったく異なるものになるし、それによって磨かれる技術も似てはいるが別の物になる。
前者はいかに期待値を高くするかを重視し、後者は如何に振らず振り込ませるかの読み合いを重視するものになる。

現代格闘技も同様で1回の試合で生死が決まるわけではない故に技術の試行錯誤が幾度も行われるだろう。
初手さえ取れればいいわけではない。
初手を取られてもその上で逆手に取る選択肢だってあるのだ。
なので、見られてもすぐに対策を取られないような技術が重宝されるわけである。
その典型が刃牙が使ったジャブだろう。
ジャブ一発で勝負が決まるわけではない。
だが、当たることが前提と呼ばれるだけあり、対策しようにも対策できない技術だ。
(作中では幾度も見切られているのは置いておく)
その点を考えると現代格闘技の王道であるジャブを戦国の武人である武蔵にぶつけたと考えるとあのやり取りはなかなか面白い。
「多くが抜け落ちたまま伝わる現代武術」
「未熟だろうが」「不十分だろうが」
「旧式でヤルしかねェんだよォ!!!」

本部が吠える。本部が吠えたのはいつ以来だろうか。
柳をボコボコにしたところに勇次郎が現れた時か。
うわ、情けねえ……
それよりも振り返ると勇次郎が麻酔銃に撃たれた時ですな。
うわ、情けねえ……

これに烈は「理解(わか)りました」と言う。
本部にも敬語だよ。いい人ですな。
手裏剣を投げてもいいんじゃよ。

さて、烈は理解ったようだ。
ハッキリ言って小生はこの人が何を言っているのかわからん。 現代武術には戦国武術の技術がいくつか喪失しているのはわかる。
それ故に現代武術を敢えて旧式と称するのもまぁわかろう。
現代武術は現代なりの進化を遂げているので、一概に旧式と呼ぶのはどうかと思うが。

ガンダムで例えるとνガンダムは前世代のZガンダム、ZZガンダムと比べると変形しないしファンネル以外に変わった武装はない。
ビームライフルにバズーカと初代ガンダム同様ですよ。内臓グレネードもハイメガキャノンもない。
機能や武装という点では失ったモノは多いが、堅牢性を初めとした基本的な性能を煮詰めた結果、総合性能では高くなっている。
失うということは時として洗練にも繋がるのだ。 失うことは決して悪いことではない。

で、旧式でもヤルしかないと吠える。
これが小生には今ひとつわからんのですよ。
消力は戦国の武に通用するものではないが、それしかないんだからそれを使うしかないよねということか?
うーむ、本部の話術は難しい。 まぁ、この迫真の叫びにみんな驚いたので成功かもしれない。
相手を論破するのではなく黙らせて勝利する議論とかちと嫌なのだが。

「―――で」
「このわたしにどうしろと…………?」


理解ったと言いながらじゃあどうしろとと返す烈でした。
まぁ、否定するなら対案を挙げて欲しいところではある。
そもそも本部の言いたいことがよくわからんからこその「どうしろと」って感じもある。

「降りな」
「素手同士の勝負でも怪しいもんだぜ」
「ましてや刀剣
(けん)を帯びた宮本武蔵」
「機関銃手にしたって勝ち目ねェ」


と、ここでペースを変えて正論で押す本部であった。
わけのわからないことを言ってペースを握った後に正論!
そう考えると先のヤルしかねェんだよもわかるというものだ。
やはり、この男は語ることに関しては相当なモノだ。
武蔵が格上なのは烈が認めるところだろう。
何せ独歩に完勝するほどなのだ。
だが、それでも挑むのが烈である。
かつてその身を餌とした男は生半可では退かぬのだ。
とはいえ、素手でも勝てないよと言われれば悔しいのか、歯噛みするのだが。

「侮辱は許容(ゆる)さんぞ」

烈、久し振りの貴様は中国武術を舐めたモードですな。
たしかに本部の言葉は正論だ。
だが、アンタじゃ力不足だと言われて引き下がる人間はいない。
それが自分よりも圧倒的格下に言われればなおさらだ。 激おこぷんぷん丸になることを誰が諫められようか。
むしろ、本部を諫めたい。

「烈つぁん…」「武蔵(ヤツ)は切れるぜ」
「鉄も」「羽毛
(はね)もだ」

何この人、烈つぁんとか馴れ馴れしいこと言ってんの?
基本的に烈への態度は皆礼儀正しい。あの刃牙だって烈には真摯に向き合っている。
深町コーチも烈を認めていたし、それは烈の激しいなれど実直な性格がバックボーンになるのだろう。
そんな人に烈つぁんですよ。何様のつもりだ。
で、羽毛も鉄も切る。鉄とは機関銃を指している。
武蔵ならやれるだろう。それは事実だ。
動画だけ見てやたら偉そうなのが動画勢とかエアプという言葉が浮かぶがまぁよしとしよう。
事実は事実である。

だが、本部は事実ばかり言ってそこから繋がるモノを言っていない。 言ってしまえば見ればわかるようなものですよ。
大事なのはそこからどうするか、どうすればいいのかだ。
かつては事実を解説するだけで食えたが今はそうも行くまい。
なので、どうしろとと烈は再び問いかけるのだった。

「この本部を」「超越(こえ)てゆきねェな」

狂ったか、本部!
この人、事実ばかり言って粗探しして対案を挙げないいわゆる叩きたいだけの人かと思っていたら、まさかの勝負を挑みましたよ。
月を引っ張るくらいにわけがわからないよ。

烈は呆然とする。郭海皇も、克巳も、寺田もだ。
特に克巳と寺田は冷や汗を流している。
いやはや、それも道理だろう。
寺田はわからんが克巳は本部の弱さを知っている。 というかメッチャバカにしておりました。
そんな弱者の代表が強者の代表に挑む。
汗を流すなという方が無理だ。

さて、一方、みっちゃんは地下闘技場にいた。
試合もとい死合いは明日だ。
大歓声ではなく静寂に満たされると予感していた。
どちらが勝つにせよ悲惨な結果になるのは目に見えている。
というか、観客ありなのですな。
武蔵の件を盛大にバラす気満々だ。
だから、お前さんはいろいろな方面から怒られる。

そう予感していると闘技場が血に包まれるビジョンがみっちゃんに見える。
何せ凄惨な試合になることは確定的に明らかだ。
血が見えてしまっても致し方あるまいて。
もっともその血が烈ではなく本部のものになる可能性が出てきたのだが。 烈の明日は、本部の明日は如何に。
次回へ続く。


本部が狂った。
いや、狂っているのは前からか。
武闘家は特攻隊ではないと独歩は言った。
勝算のない喧嘩はしないと本部は言った。
だが、今の本部は特攻隊でもなければ喧嘩でもなく、地雷原に走って行き爆発死するような無様な死を遂げようとしているようにしか思えない。
いや、大変実に本部らしいのですがね。

本部が烈に挑む。勝敗は明らかだがわからぬ。
何せ本部はただの弱者から番狂わせの王になった。
むしろ、直情的な烈は本部にとってやりやすいくらいかもしれない。
まったく読めぬ。
代打俺!をするかもしれないし、烈に本部流柔術を授けて武蔵と渡り合えるようにするかもしれん。
……後者はむしろ弱くなりそうだな。

そういえば本部流柔術って何じゃろね。
自分の名前を冠しているということは本部が一代で築き上げたのか。
あるいは本部一族が戦国時代から磨き上げた現代の合戦技術だったりして。
もしかしたら本部数百年の歴史が判明するかもしれぬ。

ここで本部逆転の策はやはり宮本の血を引くとかそういうものだ。 宮本武蔵の血を継ぐ男、本部以蔵!
おお、何か強そうだ。
そう、本部の本は宮本の本から来て、以蔵の蔵は武蔵の蔵から来ているのだ!
つまり、本部は武蔵の子孫だったんだよ!
ついに本部一族の逆襲が始まる! 乞う御期待!



刃牙道 4 (少年チャンピオン・コミックス)