バキ道感想 第102話「物言い」



宿禰が勇次郎にいきなり投げられた。
勇次郎は宿禰よりも体格に劣る。そもそも崩してさえいない。
それでも剛力だけで投げる!
大相撲力士には決してできない勇次郎だけに許されたハチャメチャである。
これだ! こういうのがバキなんだ!
何で大相撲力士に苦戦しないといけないんだ!
「小僧の分際がこの俺を呼びつけるか」
「100万年早いワ」


勇次郎、キレる!
でも、わりと正当性というか、納得感のある怒りである。 知らん奴、それも若造にいきなり呼び出されたら怒るのも無理はない。
勇次郎もちゃんとした理由で怒る時があるのだ!
前に怒った時はアレだ。本部に守護るとか言われた時だ。
……あれも正当性のある怒りか?

勇次郎にアポを取ったのは間違いなくみっちゃんだ。
みっちゃん、勇次郎にどんなことを言ったんだ? 宿禰編のみっちゃんは血を求めていた武蔵編の時と比べると、やる気があるのかないのかって感じなんですよね。
いや、原人や侍というキワモノの戦いを見た後に、まさかの大相撲力士となればあまりテンションが上がらない気持ちもわかるけど。
だから、勇次郎が絡むとなれば意気揚々とあることないことを言って焚き付けたのかもしれない。

そして、勇次郎は背を向けて帰る。
帰るの!?
追撃は無論としてケツを掘ることもしない。
あの巨凶らしからぬ大人しさだ。
怒る理由も納得感があるし、すっかりまともな人になってしまった。

勇次郎は刃牙との親子喧嘩を経たことで大分丸くなったようだ。
以前の勇次郎ならいきなり宿禰の顔面の皮を剥いでもおかしくありませんでしたよ。
せめてこの丸さが大擂台賽の時にあれば劉海王も見せ場を作れ、サムワン海王も追い打ちを喰らうことはなかったのに……
いや、サムワン海王はそれでも追い打ちを喰らうか。

「地上最強の生物せっかくのお越し」
「手ぶらで帰すのは心苦しく」


だが、宿禰は寝たままで手を掲げて物言いを行う。
未だにやる気である。
勇次郎を前にしても相変わらずの不遜さだ。
ここで引いていれば掘られるのは避けられたのに……って、どうしてもホモネタを連想してしまう。
ホモレイプ事件は偉大だ。

宿禰はあぐらをかいたまま、飛び上がる。
龍書文や武蔵が見せた謎の跳躍術である。
宿禰は二人よりも体重が圧倒的に重いからより難度が高そうだ。
でも、宿禰は腕を使っているようにも見えるから、脚?の力だけで飛んだ両名よりも難度は低いのか?

ともあれ、こうして一芸を交えることでダメージを感じさせない技法だ!
一流は起き上がる時も格好良く起き上がるのだ。
勇次郎も親子喧嘩の時は開脚して起き上がっている。
強者にとっては欠かせない技術なのだろう。
横綱の零鵬はそこのところ、全然ダメでしたね。
いや、肋骨折られたのに格好良く起き上がっても手遅れな感じはしますが。

宿禰は大きく腰を落とす。
蹲踞でありぶちかましの構えだ。
力士のスターティングポーズでありスタンダードである。
でも、勇次郎としてはけっこうムカついたようで血管が浮き上がる。 地上最強の自分を相手に真っ向から挑んでくる。
命知らずを目の前にすれば気に入らないのも仕方ない。

勇次郎はハンドポケットのまま、宿禰に無防備に近付く。
そんな勇次郎に対して宿禰はぶちかます。
否、蹴った! ついに宿禰が蹴った!
古代相撲のオリジナリティとも言える蹴りがついに解禁された。
オリバにも横綱にも使わなかった荒技である。

この蹴りを勇次郎は腹にモロに受け吹っ飛ぶ。
吹っ飛んで、柵に真横に着地。そこから地面へと音もなく着地する。
凄まじい蹴りをまともに受けたというのに完全なノーダメージである。 古代相撲秘蔵の蹴り、いきなり不発と相成ったのであった。

「俺は何を蹴ったンだ!? 何を蹴らされたンだ!?」
「まるでティッシュを蹴ったような……」
「まるで素振り…ッッ」


この感触には蹴った宿禰の方が混乱する。
打撃の手応えがなく、そして、ノーダメージ……
これは消力シャオリーか!
単純な力の一撃に対してはこれほど有効な手はあるまい。
勇次郎も認める中国武術の高級技が古代相撲に対して発揮されたのであった。

勇次郎が技に逃げたと見るべきか、あるいは宿禰にまともに付き合う気がなかったと見るべきか。
いずれにせよ宿禰を大きく動揺させることには成功した。
それを狙って消力を使ったのか?
攻めだけでなく受けの経験も多い勇次郎だからこその心理戦だった。 いや、変な意味じゃなくてですね?

「反撃に備えろ」

「”打たれる覚悟”だよ」


言うなり宿禰の顔面に勇次郎の拳がめり込んだ!
比喩とかじゃなく実際にめり込んでいる。
メッチャめり込んでいる。
下手すればギャグだが大ダメージ間違いなしの強烈なパンチだ。

腕の力だけで投げ飛ばされ、蹴りは消力で無効化され、顔面に拳がめり込むくらい殴られた。
今のところ、宿禰にはいいところが何もない。
もっとも、勇次郎相手には何をしても通じないけれど。

このまま、宿禰は勇次郎に犯られ……あいや、やられてしまうのか?
だが、宿禰にはダイヤモンドを生み出す握力がある。
この部門に関して言えば勇次郎はとんちで誤魔化している。
でも、勇次郎なら骨ぐらいは余裕で掴めそうなんですよね。

とにかく、宿禰は選んだ相手が悪すぎる。
それもこれもビジョンらしいビジョンなしに生きているからですよ。
お前、何のために秘境から東京へやって来た。
目的らしい目的を立てずに生きると、突如落とし穴に落ちてしまうという一例かもしれない。
そして、それは範馬刃牙も一緒ですね。
あっさりと迷子状態になっている。
……主要人物が軒並み迷子過ぎないか?
次回へ続く。