刃牙道感想 第68話「佐々木某」



みっちゃんが烈と佐々木小次郎を比べさせている。
不謹慎な奴め。
巨凶範馬に対する巨悪徳川。強さを比べるためならあらゆる犠牲を厭わぬのだ。
自重しろ。


「何という光栄だッッ」
比較くらべとるんじゃ!!!」
「かの 天才美剣士佐々木小次郎と……ッッ」「我らが拳雄烈 海王を!!!」


悩む武蔵を前にみっちゃんは光栄と思う。
烈はあの伝説の剣豪と比較するような強者なのだ!
そんな烈を贄と捧げたこのジジイに怒りを覚えるのは決して筋違いではないはずだ。

みっちゃんの小次郎のイメージは典型的なものである。
武蔵と比べるとデザインが凝っていないですな。
あくまでもみっちゃんのイメージということか。

「あッ」
「船島だ」


と、武蔵はふと思い出したように船島――巌流島の正式な名称を言う。
佐々木某呼ばわりした。
うわ、扱いが軽い。
有馬や秋山は覚えていたのに……

「忘れてたっぽいが…?」

「いやいや何を言うとる」「思い出したではないか」

と、いい反応をする武蔵であった。
烈を斬殺すれどこんな一面があるから憎めないのが武蔵である。
なお、逸れたヘイトはみっちゃんに向くのは言うまでもない。

今の武蔵の記憶はいつのものなのだろうか。
武蔵が没したのは60歳程度だ。
なので、60歳の記憶なのか、あるいは肉体年齢30歳程度のものになっているのか。
その解釈は一筋縄では行きそうにない。
長いキャリアと若い肉体を両立した前者と捉えると、今までのライバルにない個性が出ているので面白いのだけど……
ともあれ、武蔵は幾度も決闘をしているからか、佐々木小次郎をなかなか思い出せなかったのだった。

そんな武蔵の小次郎の評価は普通だった。
弱いわけでもなければ特別強いわけでもない。
えらくファジーな評価である。
武蔵のライバルと言えば佐々木小次郎なだけにみっちゃんはガッカリするのだった。
わからなくもない。前回の引きは何だったんだ。
あとお前はがっかりしている暇があれば猛省せい。

「合戦に喩えるほどの戦力」「普通のハズはなかろう」

そんな武蔵だったが烈は普通ではないと高評価を下す。 これにはみっちゃんも喜ぶ。
ええい、お前は猛省せい。
ともあれ、烈を関ヶ原に例えたのは高評価の表れだったのだ。

「そもそも」
「おぬしの紹介した3名」「奴らは皆普通ではない」


さらに烈・刃牙・独歩の3人が普通ではないと加える。
ジャブでダウンを奪った刃牙はまだしも、わりと一蹴した独歩も高評価なのは意外だ。
独歩戦は楽勝に見えて存外際どい勝利だったのだろうか。

なお、堂々と佐部京一郎は忘れられている。
コマの片隅に密かにいる辺りは公式弄られ枠デスな。
まぁ、佐部は武蔵から見ればただ出来損ないの日本刀を持ってきた人だ。 イメージ刀だけで戦意がなくなったほどだった。
また、刃牙のジャブにタフネス、独歩の刃物並みの拳足、烈の関ヶ原並みの戦力と戦国時代にもなかった独自性を見せたこの3人に対し、佐部は時の剣豪以下の単純な劣化で記憶に残らないということか。

「かの戦国の世にあっても」「そこそこ名を成したであろう」

とはいえ、戦国の世ではそこそこ止まりのようだ。 やや厳しい評価と言わざるを得ない。
だが、名を成すとはどの範囲なのかは触れられていない。
合戦で手柄を立て名を挙げるのか、あるいは試合で勝ち名を挙げるのかで大分話は変わってくる。
戦国の世でとなるとやはり前者だろうか。
武蔵も関ヶ原で戦ったこともあって、合戦が基準としてあるのかもしれない。

それでも地上最強クラスの刃牙でさえそこそこ……
まぁ、武蔵と戦った時は本気でなかったのもあるか。
また、3人共、殺し合いを前提として戦ってこなかった故の精神性の違いが戦国時代に名を挙げるには適していないだろう。
素手の試合形式なら戦国でも最強クラスだとは解釈したいところではある。

「次を待つ」

「毎日でも構わんッッ」

そんな武蔵だったが次の戦いを待ち侘びていた。
人を1人殺したというのに次の戦いを渇望している。 現代人からは信じられないメンタリティだ。
ピクルも人を食っておいてまだ戦いを求めていた。
過去の人間たちは戦いの持つ意味が現代よりも遙かに重いというのに、それでも戦いを求めている。
それが強さを支えているのだろうか。
とりあえず、みっちゃんは次こそは人命を守護れる態勢を整えていただきたい。
格闘漫画としても武器ありの方が強いとなると盛り上がらないしね。

さて、ここからが今回の刃牙道の本番だ。
アニメで例えると歌い始めた辺りである。
そんなわけで舞台は本部流柔術の道場だ!
そこを訪れていたのは何と刃牙である。
え? 何で刃牙がこんなところに来てるの?
「老若男女 誰にでも開放された道場故―――」「入門を断る理由はないが」
「今どき」
「何故に古流武術を身に付けたいなどと……?」


ええと、これはドコから突っ込めばいいのでしょうか。
まず、老若男女誰にでも開放されていると言うように本部流柔術は誰でも入門できるようだ。
信じられません。
何というか、自殺志願者を更生させる目的で作られたくらいにしか思っておりませんでした。
というか、男はともかく女がここに来るのか? 梢江くらいじゃないか?

何よりも疑問なのは刃牙が本部流を学ぼうとしているようだ。 範馬刃牙と言えば暴投が得意である。
いや、まぁ、烈が殺されるほどだ。
古流武術対策はいくらしても損はない。
だからって本部はないだろう。パチンコで負けている人にギャンブルの秘訣を聞くようなものだ。
刃牙道になってからの本部の持ち上げ方があまりにも恐ろしすぎる。

だが、本部は武器を解禁して死刑囚を圧倒している。 適役と言えば適役なのだ。
だが、長年の刃牙読者としてはこみ上げるものがある。
あの本部を刃牙が当てにしているんですよ。
もう20年以上前の話かと思っていた。

「駄目だ」

「え!!?」
「ダメなの!!?」


本部が刃牙の入門を断った!?
あっという間に本部流柔術の歴史が書き換えられるほどの大物だぞ。
あっという間に本部が師範の座から引きずり下ろされるほどにだ。
何にせよあの刃牙が弟子入りしたいというのを断るとは……
そりゃ刃牙だって驚くよ。マジで驚くよ。
驚き方としてはお前に拒否権があるのかって感じだけど。
「銃で脅してでも止めるべきだった」
「俺が烈 海王を」「守護まもれなかった」


本気で守護る気だったのならもうちょっと何とかなったと思うのだが、それは敢えて突っ込まないでおこう。
烈の死は本部にとっても不覚だった。
まぁ、烈と本部の間に繋がりないんですけどね。
いきなり守護りに来た時くらいだ。

銃で脅してもと言っているが銃を相手に烈は屈服する人間でもなかろうに。
それに本部が持ち出せる銃なんて火縄銃くらいではないか。 烈を脅すにはアサルトライフルやサブマシンガンみたいな強力な銃はどうやって調達するというのか。
いや、みっちゃんなら面白がって用意するかもしれんが。
というか、アンタはもしかして銃で武装した方が強いのか?

(………………)「……………え?」

これには刃牙も何言ってんだお前みたいな表情になる。 急にしゅごキャラに目覚めたこのおっさんには刃牙と言えどついて行けていない。
一体どうしたのだろうか。社会派にでも目覚めたのか?

刃牙と言えば主人公ながら絶大なヘイトを集めるキャラである。
果たしてバキ読者に刃牙のことが一番好きと言い張れる人は何人いるのだろうか。
あまりいないと思う。
人気という点なら本部以下なのは間違いない。
だが、今だけは刃牙に感情移入せざるを得ない。
「ムリだぜアンタらには」
「逆立ちしてもな」
「俺が守護まもる!!」
「あの武蔵の魔手から君らを!!」


狂ったか、本部!
この人は本気で狂ってしまったのだろうか。
いや、烈を相手にダメ出ししたのだから、今更刃牙を相手にダメ出ししない理由はない。
だが、相手は腐っても刃牙だ。遙か格上である。 勇次郎を相手にダメ出しするに等しい行為だぞ。

そして、武蔵の魔手ってアンタ……
武蔵は烈を殺したとはいえ、あくまでも挑まれる側だ。
殺したのは酷いかもしれないが悪くはない。
なので、魔手もクソもないと思うのですが……
あくまでも襲いかかられたから迎撃すると、専守防衛を心がけただけなのだ。

それは守護者だからとて専守防衛だけでは守護れないことを意味する。
むしろ、武蔵に襲いかからないと。
襲撃らねばならぬ?

「誰を?」

刃牙がキレた!
いや、そりゃキレるわな。
武蔵に及ばないと言われるだけならまだいいし、不覚を取った身としては納得もするだろう。
だが、自分より遙か格下に守護るとか言われたらそりゃキレる。 刃牙の怒りには正当性がある。

本部はどうするのだろうか。
こうなれば実力行使で守護ってやるしかない。 言葉で何と言っても通じないだろうからそれしか道はない。

というわけで、まさかの刃牙VS本部開幕だろうか。
1年前までなら試合にさえならない。2秒というレベルではない。
だが、今の本部には何かが憑いている。 奇跡を起こせるか、否か……
武蔵の試合以上に目を離せない展開になりながら次回へ続く。


本部が爆発した。
いや、何というか、……この人、マジでどうしちゃったのだろうか。
出るだけで笑いが取れるくせに、さらに濃密な笑いを取ってきやがる。
こりゃ刃牙道じゃなく本部道にタイトルを変えてもいいかもしれない。

本部は山ごもりした時に武器術の鍛錬も積んでいたようだった。
それは武蔵の復活を予見してのことか。
なので、対武蔵に一番適している人材……かは怪しい。
武蔵は素手でも強いし、本部は素手では弱い。
……何か灯台もと暗しになっていないか、この人。

ともあれ、刃牙に挑んだ。
刃牙は油断することがよくあるし、その時にはよく負ける。
だが、武器前提の殺し合いは幾度か経験しているし、試合以外でも強い男だ。
なので、本部如きには万が一にでも不覚を取ることはないと思うのだが……

これで本部が刃牙を圧倒することがあれば、烈と互角に渡り合った以上の衝撃だ。
何十年にも渡り保たれてきたパワーバランスが完膚なきまでに崩壊してしまう。
もはや宇宙の法則が乱れかねないほどの大災害である。
ある意味では烈が死ぬ以上の大事件だ。
とりあえず、刃牙にはバキ世界の存亡を賭けたこの一戦を何とかして欲しいところだ。
ここで刃牙が負けたら何を信じればいいのかわからなくなってしまう。
そりゃ不覚を取ることの多い刃牙とはいえ、雑魚に負けるほど落ちぶれてはいませんよ。
よもや守護者の本部が守護とはもっとも程遠い破壊者になろうとは……
ん? つまり、本部が悪いのか?




刃牙道(6) (少年チャンピオン・コミックス)