刃牙道感想 第70話「武芸百般」



本部が刃牙を凌駕してしまった。
さすがにやりすぎと言わざるをえない。
本部に求めている役割は、その、解説かデカい口叩いて瞬殺される類のものなのですが……
戦えば面白い人だが勝っては面白くない人が本部であった。


刃牙が踏み込んでから本部が短刀を突きつけるまでが別の角度で描写される。
本部が目くらましに使った道具は煙玉だった。
そういえば、烈もドイルの煙幕には不覚を取っていた。
煙幕は白兵戦においては範馬一族さえ手玉に取れる武器なのだろうか。

しかし、本部は煙玉を振りかぶって床にぶつけている。 てっきりノーモーションであり、だからこそ刃牙も反応できなかったと思ったのだが……
やっぱり、これは油断したな。さすがに油断したな。
一瞬の油断が命取りな辺りが今の本部であった。

本部は短刀を懐に収める。
それを見て刃牙は殺さなかったのがミスだと襲いかかることはしない。
どうやらいつもの不遜よりも動揺の方が大きいようだ。
そりゃ本部に不覚を取れば人生のほとんどを否定されたのようなものだ。 数日寝込んでも責められないし、格闘家を引退してもおかしくはない。

「素手同士なら刃牙さんは手に余る」

あ、やっぱりその自覚はあったか。
まぁ、80点ですからな。
80点という時点で過大評価であるのだが、烈と互角に渡り合ったのだから下手に突っ込めない。
何だか本部が這い寄る混沌めいた魔物になっている気がする。 今一番不気味な強さを秘めた登場人物ではなかろうか。

さて、本部はお手製の煙幕玉を紹介する。
あ、手作りなんだ……
レシピは陶器で玉を作って中に火薬を入れる。
こんな形の陶器なんて出回っていないだろうから、そこも手作りなのだろうか。
武芸百般というか器用なおっさんだ。
マシンガンを用意しろと豪語するだけに、軍で使われているスモークグレネードを持ち出してもおかしくないと踏んでいたのだが、見事に手作りであった。
やっぱり、マシンガンは持ち出せなかったか。
そして、マシンガンを使えとか言ったのにマシンガンではダメだと言って、挙げ句にマシンガンの使用は禁止された過去は忘れてあげよう。

「これが兵法」「これも闘争」
「そしてこれが宮本武蔵の流儀でもある」


古今稀に見るドヤ顔の本部である。
多分、内心では跳んで跳ねて床を転がり回りたいのだろう。
それを抑えている辺り、このおっさん、結構必死であろう。

本部はさりげなく武蔵=本部の方程式を立ち上げた。 ううむ、調子乗っておるな、こやつ。
しかし、刃牙を相手に実証してみせたのだから、悔しいが反論ができない。
忘年会とかでこのことを延々と自慢しそうだ。

「殺されたんですね」「俺は」

「それはどうかな」
「少なくとも俺に殺す気はなかったし」「殺すつもりなら君の反応も違っていたハズ」


調子に乗るだけでなく、ちゃんと刃牙のフォローもする本部だった。
刃牙は殺し合いを幾度か行っている。 現役軍人(正確には自衛隊員)とも殺し合えば、何でもありの死刑囚とも殺し合っている。
明確な殺意を伴った攻撃なら、ナイフもかわせるし目に見えないワイヤーもかわせる。風神鎌だってかわせた。
それらの攻撃と比べて煙幕玉からの短刀は予想外であれど、特別殺傷力に優れたものではない。
たしかに殺す気だったのなら刃牙の反応も変わってきたかもしれない。

これは武蔵が烈の攻撃を受けた理由にも関わっていそうだ。 やたらと烈の攻撃を受けた武蔵だけど、殺意がなかったから反応が遅れたのだろうか。
そんな相手も一刀両断するから大人げないというか厳しいというか……

「君ら現代格闘士はこういうことに慣れていない」「屈辱的かも知らんがこれは事実だ」
「この流儀に精通するのは」
「俺だけなのだ」
「範馬刃牙でもない範馬勇次郎でもない渋川剛気でもない」「この本部以蔵ただ一人なのだ」


「親父もかい………」

実戦なら本部は勇次郎以上!
この発言には刃牙も気の利いた返し方をできない。
いや、本部さんや。
勇次郎はかつての合戦に勝るとも劣らない戦場を駆け巡っている。
武蔵の戦い方にも対応できると思うのだが……

それとも一定以上の戦力を持つ相手と何でもありの戦いはしたことはないのだろうか。
現代戦は銃火器のウェイトが大きすぎて、本部や武蔵のように様々な技術が求められておらず、結果勇次郎も経験が浅いのかもしれない。
本部曰く、この戦いは勇次郎でさえ分が悪いものなのか。
でも、本部の発言だからなー。
本部のビッグマウスは信用してはならないのが通例だ。 騙されてはいかんぞ、ああ騙されてはいかん。

「この闘争たたかいは俺の責任なのだよ」

うむ、意味がわからん。
本当に何を言っているんだろう、この人は。
一番の責任者はみっちゃんだ。あいつは許してはおけん。
それとも守護れなかったことを気に病んでいるのか?

とにかく、相変わらず謎の使命感に突き動かされ今日も今日とて本部は往く。
誰か止めろというか、どうせすぐに止まるだろうと踏んでいたが、残念ながら刃牙にも止められないのだった。
しかし、武蔵は素手の戦いをするという発想はないのですな……
武器で戦うことが前提になりすぎると、今までの連載は何だったのかともなるし収拾も付かない。
なので、武蔵の本気が素手だと大変助かるのだが……

さて、その武蔵だったが現在逮捕されていた。 警視総監自らが出向くほどの大行事であった。
どうやら観客が通報したらしい。
うわぁ、ガバガバ箝口令ですな……
シベリアトラ捕食をマスコミに撮られたよりはマシか?

とはいえ、通報したくなる気持ちもわからなくもない。
何せ人が死んだのだ。それも地下闘技場のアイドルが武器ありで。
やるせない気持ちやみっちゃんを許せない気持ちが表に出ても致し方あるまい。

それをみっちゃんは演舞中の事故で通そうとする。
一切の悪気なし。佐々木小次郎のことを聞いて良心もなくなったようだ。
初めの方はダウナーだったのに……
一番裁かれるべきは武蔵じゃなくみっちゃんだ。

そんなみっちゃんに内海警視総監は悪いようにしないで通そうとする。
何か裏があるのだろうか。
バキ世界における警察関係者の格闘家は渋川先生とオリバだ。
この2人が関わっているのだろうか。

当事者の武蔵は手錠を軽く引き千切りながら勉強と出頭するのだった。
外には機動隊が大挙して訪れている。
バキ世界の機動隊はこれっぽっちも役に立たない。
だが、武器のウェイトが妙に大きくなっている現状では有効かもしれない。
武蔵は機動隊に勝てるのか、負けるのか。あと本部はどうしてくれるのか。
次回へ続く。


本当に本部が刃牙を倒したのだった。
うーむ、夢オチでも良かったというか、むしろ腹を抱えて素晴らしさを賞賛したのだが。
ともあれ、武器ありなら本当に本部は強い。
柳の敗北も道理であった。

本部曰く、武器ありなら勇次郎も今ひとつのようだ。
その勇次郎に本部は日本刀を握力だけでへし折られている。
ダメじゃん。駆け引きには分があるかもしれないけど、ダメじゃん。

一向に姿を見せない勇次郎は何をしているのだろうか。
武蔵なんて格好の獲物だと思うのだが。
もしかして、武器戦を学ぶためにストライダムに弟子入りしていたりして……
いや、ストライダムも守護者モードになっていたりして。
俺が守護らねばならぬ第2号……




刃牙道(6) (少年チャンピオン・コミックス)