というわけで、2週間ぶりの喧嘩稼業。
すげえ! 2週間ぶりとかハイペースだ!
裕章はチェーンパンチで文学をポコポコと殴る。
1発は軽そうだけどノーガードのところに何発も当たれば相当なダメージになろう。
あと文さん、少しはガードしろ。
お前の師匠糞弱じゃねーか!
「ヨシフは入江を弱いと言った」
「だが入江の攻撃にはアイデアがあり技の完成度も高い」
「入江の弱さは死線を潜り抜けるような戦いをした事がないのだろう――詰めが甘い」
「俺と入江の違いは経験の差」
「生き方が逆なら結果は逆になっていたのかもしれない」
ポコポコと殴りながら裕章は文学を分析する。
文さん、童貞だからな……
経験不足というか経験ないからな……
そういうことは抜きにしても文学はこれまでに雑魚としか戦っていない。
アンダーグラウンドで生死を分ける戦いを繰り返してきた裕章と比べるとたしかに経験の差があるかもしれない。
裕章は前向性健忘のせいで戦いの記憶がなかったと思ったが、身体で覚えているということなのだろう。
なお、文学は梶原さんの手を切っているが、あの時の梶原さんは雑魚時代だったので雑魚枠で。
ポコポコ殴られながら文学は立ち技では裕章の方が上だと認める。
グラウンドに持ち込まなければと思っていると、猿臂、肘打ちを2回受けてダウン。
逆にグラウンドに持ち込まれて、今度は振りかぶったパンチをしっかりと食らってしまう。
お前の師匠糞弱じゃねーか!(2回目)
文学は一連の攻防で意識が飛んでしまう。
それでも意識が戻り次第、ポジションを逆転させてマウントを取り返すのはさすがだ。
攻撃のアイディアがあるだけのことはある。
ただ経験不足なだけなのだ……
文学はセコンドのカワタクの叫びを観客の声援に勘違いするくらいには意識が混濁していた。
それでもマウントを取り次第、即座に頭突きで攻める。
十兵衛も石橋を相手にした時に頭突きで攻めていたから富田流に共通するマウントの攻め方かも。
「コ…コイツ」
「キャッチした瞬間に頸椎を捻じ折るつもりだ」
マウントを取られつつも裕章は罠を張っていた。
頭突きをキャッチすると同時に頸椎を捻じ折る!
つまり、相手を殺すということである。
そして、その構えを取っている時の裕章は無表情というのが恐ろしい。
殺し合いを潜り抜けてきただけあり、記憶になくとも身体が殺人を覚えているのだろうか。
実に陰側の人間であった。
この裕章に気圧され攻め方を変えたところをすぐに対処され、マウントから抜け出されてしまう。
これでプラスマイナスゼロではなく、文学にはダメージが残っておりふらつく。
このままでは打ち合いでは勝てないので踏み込んで捕まえることに逆転を見出そうとする。
その逆転策はおそらくは高山だろう。
ノーダメージの相手に入りそうにないのだが、3週目にして追い詰められたからにはそれしかなさそうだ。
ダメージは残っていても文学は踏み込み刻み突きを放つ。
無一との鍛錬が育んだ身体と意地であった。
悪いこと言わないから無極使え。
実はクールタイムが必要で後の高山のために節約したのか?
文学は反撃の突きをかわす……つもりが裕章の選択は突きではなく耳を掴むことだった。
そして、文学の動きをコントロールして膝蹴りを顔面に叩き込む。
お前の師匠糞弱じゃねーか!(3回目)
この大ピンチを前に多くの者が文学の敗北を予感する。
十兵衛も絶望的な状況を前にうなだれる。
相変わらず観客の時は可愛い反応をする十兵衛であった。
20分置きに嫌がらせをする奴のくせにな……
「……なめんなよ」
「俺の魂はまだ燃えてんだよ」
「お前も燃やしてやる」
それでも文学の心は折れなかった。
そして、捕まれた耳を自分から引き千切る!
この壮絶な決意と迷いなき行動に陰陽トーナメントの出場者の大半が絶句する。
特に陽側のほぼ全員は動揺を隠せていない。
スポーツでは絶対にありえない行動を前には完全に意表を突かれたのだろう。
この時、睦夫と田島、金隆山だけ驚いていない。
……待て、横綱。
アンタは驚かんのかい。フィジカルだけでなくメンタルもバケモノなのか?
微妙なラインなのはカブト。
口を開いているからマスクで汗が目立っていないだけだろうか。
そして、自分も同じく耳を千切った上杉は死ぬほど驚いていた。
驚くんかい。
これによって裕章の腕は流されてノーガードの瞬間が生まれる。
そこに文学の左鉤突きが肝臓に入る。
文学のは反則のキドニーブローじゃなくリバーブローなのであった。
これには無表情だった裕章が初めて呻く。
「父親の好敵手だった男は咆哮し」
「判官贔屓だった観客は」「水を打ったように鎮まり」
「唯一の弟子は狂喜した」
この煉獄のファーストステップの成功に上杉はガッツポーズを取る。
うわぁ、メッチャ喜んでる……
富田流とは因縁浅からぬはずなのにメチャクチャ喜んでるよ、この人……
無一を襲ったのは完全に上杉に非があるから、誤解が解けたら恨みもなくなったのか?
そして、十兵衛もガッツポーズを取る。
うわぁ、メッチャ喜んでる……
文学を童貞ネタで散々弄ったくせにメチャクチャ喜んでるよ、この人……
自分が戦うとなれば卑怯外道だけど、観戦している時は普通の高校生だな、こいつ。
毒を仕込んで勝って、20分置きの嫌がらせをした男と同一人物とは思えない。
可愛い奴め……
進道塾と十兵衛は煉獄の始まりを予感しその通りに煉獄が始まる。
カウンター大得意の徳夫でさえ為す術もなく受けに徹さざるをえなかったのが煉獄である。
後の先大得意の裕章も殴られ続けるより他ないか?
これで対処できたら徳夫が糞弱になる。
文学、何とか逆転の一手を打って次回へ続く。
それにしても試合開始3週目――は語弊があると気付いたので3話目に訂正しよう。
3話目にしてクライマックス感である。
こんなペースを上げて大丈夫なのか、木多先生。
ペースを上げるくせに連載ペースは変わらないのが心憎い。
いや、普通に憎い。
アシスタントさん雇ってくだち……