しかし、ゼロ距離に持ち込むという逆転のチャンスは掴んだ。
ウオオオ行くぞオオオ！
蹴速の蹴りが独歩を倒すと信じて……
独歩の十八番、正拳の連打が蹴速に直撃する。
ただの一発でさえ人体最硬度の部位、踵を破壊する。
それを幾度も受けて蹴速の胸骨にはヒビが入る。
肉体の強靱さなら今でも最高峰のドリアンの肉体を砕いただけあり、蹴速も同じようなダメージを受けるのだった。
しかし、蹴速は吐血しながらも独歩の肩を掴む。
そして、三角絞めだ！
古代相撲に寝技がありなのかと観客たちは驚く。
高等技術の三角絞めが古代相撲発祥とは考えにくいので、他の格闘技から組み込んだと考えるべきだろう。
古代相撲における蹴速という称号は2代しか存在しない宿禰と違って当代で101代とけっこう安売りされている。
それだけに伝統を重んじる以上に最新の格闘術を貪欲に取り入れる傾向にありそうだ。
蹴速の仕切り直し理論は置いておいて、歴史上は敗者なわけだし。
結果、蹴速には相撲要素がほとんどなくて古代相撲の定義が怪しくなっているが。
宿禰は相撲要素多めだから相撲を名乗るのはわかるのだけど、蹴速は体型も相まってただの統合格闘家のような……？
ともあれ、独歩大ピンチだ。
完全に極まった裸締めからは逃れられないように多分三角絞めからも逃れられない！
それでも複数箇所の骨折をしている相手に反撃をやりにくいと独歩は余裕を見せる。
「初めて耳にする」
「人体の一部が引きちぎられる
蹴速の両耳を引きちぎった！
現代医療なくては仕切り直しできないえぐいダメージだ。
猛剣の耳を足刀で切ったことといい、すっかり耳を切る男になってしまった独歩だ。
こうした部位破壊は克巳にはない強みか。
克巳は徹底的に叩きのめすことが苦手なので、心理的にできないのかもしれないけど。イスタスの目を潰した過去は忘れてあげよう。
耳を削いだからと三角絞めの直接的な妨害にはならない。
だが、肉体の一部が千切れるという今までにないダメージを予期しないタイミングで受けた。
力が緩まるのは必然であろう。
おそらくは生まれたであろうその隙間に独歩の両腕が動く。
蹴速の脇腹を挟み込むように貫手が放たれた。
かつて勇次郎相手に奥の手として用い、無念にも不発に終わった技であった。
それをモロに受けた蹴速から目の光が消え失せる。
そして、三角絞めを解き力なく倒れ伏せるのだった。
「勝負ありッッ」
マジかよ！？ 勝負あってしまった！！？
まさかの蹴速、緒戦敗北である。
まるで勇次郎と並ぶ天才と本部におだてられながらもマウント斗羽に蹂躙された花田のようなやられっぷりであった。
もしかして裏で本部が蹴速の才能はオーガに並ぶみたいなことを言っていたのか？
フラグ立てちゃいました？
古代相撲の大物、宿禰の後釜として蹴速が登場した時はどうなるかと思った。
こいつ、過去に負けてるのに今更顔を出すとかどんな勝算があるんだと。
蹴速にはごく普通に勝算がなかった。普通に負けやがった。
実に予想外の展開だ。大相撲力士が地下闘技場戦士相手に健闘するよりも予想外だ。
これなら腕を折った猛剣の方がよっぽど独歩を苦しめている。
つまり、猛剣の方が蹴速よりも強い、のか？
古代相撲よりも大相撲の方が強いのか？
いや、それなら零鵬があっさり負けたのはおかしい？
ここまでの流れがわからなくなる怒涛のちゃぶ台返しである。
蹴速に魅力があるのかとなれば、まぁ、宿禰と同じくらいだった。
なのでいまいち応援しがたいのだが、まさかあっさり負けるとは思わなかった。
「初ッ端だ」
「あれが肝だった…」
独歩は踵を破壊したことが蹴速の敗因だったと語る。
いや、そりゃそうですよ。片足が使えなくなるのは致命傷だ。
何よりもその後の蹴速は強がってばかりで現状の解決に努めなかったのもダメだった。
ダメージがバレているのならそこを開示して守る方がまだ良かった。
意地張って弱った部位をぶつけてもダメージが深くなるだけだよ。
馬鹿が！ 馬鹿が！ 馬鹿がよ！
「武神 愚地独歩」「武神のまま帰還す……」
仕切り直し 当麻蹴速。負け犬のまま敗北す……
蹴速、文句なしの完全敗北だった。
ここから仕切り直すのか？ 恥の上塗りでは？
仕切り直してさらに負けた死刑囚という前例はあるにはある。
でも、好感度は上がらなかったのが実情だ。
仕切り直して一つの結論に至ったドリアンやドイルはまだしも、シコルスキーなんてただ往生際が悪いだけだった。
お前もなのか、蹴速。あるいは。
独歩VS蹴速の試合自体はけっこう納得感があって面白かったんですけどね。
結果としては独歩の圧勝だったけど圧勝なりに持ち味がしっかり出ていたのは好印象だ。
大相撲力士戦のルカナンとマヌーサとマホトーンとボミオスとメダパニ全部が合わさったような強烈なデバフがかかっているとしか思えない展開よりは気持ちがいい。
一方で蹴速は何もいいところがなかった。サンドバッグ以上にはなれなかった。
何一つスゴいところを見せず負けたのはある意味スゴい。
やせ我慢程度だったが、それだけなら千春にだってできる。
今のところ、蹴速に一番近いのは千春だ。
千春かよ……いや、妙な人気があるキャラではありますが。
仕切り直しは蹴速のキャッチコピー。
仕切り直すなら絶好の機会だが、仕切り直して独歩に勝たれても困るのが実情だ。
古代相撲の刺客全員が敗れてどうする？
というか、宿禰はどこ行った？ ジャックの宣戦布告は？
次回がまったく読めないまま、休載を挟んで次回へ続く。
