刃牙道感想 第87話「無刀」



武蔵の奥義は素手!
うむ、これですよ。
これこそバキであり板垣節ですよ。
恐竜を素手で倒す原人がいるんだから、伝説の侍の最強装備も素手に決まっていますよ。
烈の犠牲は……何事も先入観に囚われたらいかんということで。

「強いな」「範馬勇次郎」

「見ねい」
「股ぐら蹴り上げるため」「差し出した向こう傷」
「強えよアンタも」「噂通り――否……それ以上にな」


勇次郎と武蔵は互いの強さを認め合う。
睾丸を打ち抜いた勇次郎ではあるが、そのために首を切られるリスクを乗り越えている。
圧勝に見えて僅差の競り合いを制した接戦である。
だからこそ、勇次郎は武蔵の強さを認めているのだろう。
ここで刀を持っているから強くて当然と言い出さない辺りが潔い。

「噂か…」
「四百年間」「噂され続けたと…………」
「そういうのが好きだ」


噂どころの話ではないのだが、武蔵の望み通り、死後もその名声は生き続け現代においてもまだそれは健在である。
ある意味、武蔵の望みは最高の形で叶っている。
睾丸を蹴られてもこんなことに思いを巡らせる辺り、武蔵のあの叫びは本心からか。
名誉や金品を求める俗物的な側面もあれば、エア書道に開眼する観念的な側面もあり、武蔵の見せる表情は多岐に渡る。

武蔵がエア書道引いては無刀に覚醒したのは老後だ。
武蔵は十分な名誉を手にして名誉欲が薄れたことで、無刀という新たな境地に達することができたのかもしれない。 最初はとにかく手っ取り早い剣で名誉を稼ぎ、十分な名誉を得たら無刀という新たな領域を目指すと……
何かゲームの育成プランみたいだ。

「眼の前のその漢こそが「強さ」における現世の「最高峰」だ」

徳川光成は改めて勇次郎という男を武蔵に紹介する。
現代の地上最強が範馬勇次郎なのだ。
何やかんやで変わらない法則である。
鎬紅葉に押されたり一流のハンターにやられたりの黒歴史もなきにしもあらずだが気にしないでおこう。

武蔵は勇次郎を最強の敵と認めた。
だから、國虎を拾う。
拾うのかよ!?
と思いきや鞘に収めてみっちゃんに返した。
これにて完全に素手。
スペックのように素手が一番危険と言いながら武器を使うような見苦しい真似はしなそうだ。

「運がいい」「出世の糸口が向こうから来てくれる」
「疼きは残るが闘える」


あ、未だに出世を気にしてる。
そして、金玉も気にしてる。
勇次郎に蹴られて疼くだけというのも十分凄い。
鋼鉄の睾丸だ。
あるいは勇次郎も刀で斬りかかられて危なかったから、力より速さを重視して軽く蹴り込んだのかも。 何にせよ武蔵の睾丸は無事だ。
グラップラー一同は文化遺産相手にも睾丸を蹴り込むから焦る。
もうちと手加減を……

「いざ……」

武蔵は改めて構える。
その構えは作中で幾度も触れられた肖像画のそれと同様だ。
ついに実戦でこの構えを見せた。
気になる手は刀を握っているような形だ。
幻影刀、再びか?
勇次郎にそれは通じないぞ。刃牙は勝手に死にかけるけど。

刀剣かたなを手放したら「気」がデカくなりやがった」
「いや………」
「手放しちゃいねェ………」


構える武蔵を前に勇次郎もハンドポケットを止める。
分析した結果、油断がまったくできない状況だと認めたようだ。
そして、刀以上の威圧感である。
前例からすれば武器を持っているより素手の方が強かったが、武蔵が出てからというもの、その前例が切り崩されてしまった。
だが、今こうしてついにやっと素手の時代に戻った。
武器を持って強くなるのは本部だけなのだ!

太刀だいもない……小刀しょうもない……」
「我が二天一流の辿る途」


武蔵は再び脱力からの急速接近で近付く。
そして、素手で斬撃!
右の斬撃で勇次郎の太腿が斬れ、左の斬撃で髪が斬れる。
素手の武蔵の切れ味は日本刀に匹敵するものだった。
この斬撃を勇次郎は直撃を避けた。
避けたが日本刀二刀流の時と違って出掛かりを止めることはできなかった。
武蔵の攻撃の構成自体は二刀流で襲いかかった時とまったく一緒だ。
だが、その鋭さはより増しているようだ。

日本刀の重さは1.5kgとけっこう重い。
そこで國虎を捨てて軽くなったことでさらなる速さを手にしたのか。
古の侍の戦いは読み合いの領域になった。
そうなると求められるのは例え読んでも防げないレベルの速さかもしれない。
ジャブよりも速ェ一撃が素手による斬撃!
武蔵が素手に辿り着いたのはそうした事情もありそうだ。

「なるほどな」「やがて無刀へと…辿りつく」
「だから二刀か」


二本の腕を使って戦うのが素手だ。
ならば、その素手を想定して二本の刀で戦っていたというのが板垣的宮本武蔵二刀流解釈!
うむ、実にバキらしくなってきた。
恐竜を素手で狩って食っていた原人がいる世界ですよ。
侍だって素手が一番強いですよ。

武蔵が独歩に辛辣な評価を下したのは、本当に斬れる拳を持っていたからかも。
人間凶器の独歩を越えた人間刀が武蔵!
そりゃ独歩が滑稽に見えても仕方ないか……
ともあれ、現代の格闘家たちの拳は剣に匹敵するが武蔵の剣ではないと言ったのはこうした意図があったからか。
武蔵の拳は剣を越える武器なのだ。

間違いなく武蔵は勇次郎にとって最大級の強敵だ。
刃牙を凌駕するかもしれない。
求めた最高のご馳走を前に勇次郎は笑う。
戦いを空気より愛する鬼の笑みだ。
武蔵も出世のために踏み込む。
最強と最強の激突だ!



その時、本部が身を挺して武蔵の斬撃から勇次郎を守護った!
本部が! 守護った!
ここで本部が守護ったぁぁああああああああああああああああ!
コイツ、守護ったよ!
ついに守護りやがったよ!!

「本部ッッ」

「何奴ッッ!!?」

勇次郎の身体を切り裂くのが武蔵の無刀斬撃である。
当然、本部如きが直撃したらただでは済むまい。
さすがに真っ二つとは行かなかったが白目で気絶する。
あ、さすが本部。やっぱりあまり強くない。
こうして身を盾にして壮絶にボケたのに勇次郎はキレているし武蔵は誰だお前と驚いているし、周りの評判はあまり良くない。
ま、まぁ、そうなりますわな。
極上の料理を食べていたらいきなり遮られたようなものだ。
武蔵からすれば出世のチャンスを潰された。
敵だけでなく味方からも壮絶なるヘイトを集めてまでも守護る本部の決意は本物だ。
ともあれ、ついに本部が守護った。
まさかこんな直接的な守護り方をするとは思えなかった。
何か本当に予想を裏切る男ですな、刃牙道の本部。
修行していたのも予想外なら守護るとか言い出すのも予想外だし烈と互角に渡り合うのも予想外であったし刃牙に勝っちゃうのも予想外にほどがあるし盾になるなんて予想外すぎてコンビニで拭いた。
どうせなら烈の盾となれば良かったのに。 本部が死にながら次回へ続く。


本部、ついに守護る!
武蔵の素手を忘れてしまうほどのインパクトである。
守護るのならマシンガンを持って乱入かと思いきや、堂々と盾になった。
何だこのおっさん!

本部が守護ったのはやっぱり武蔵の本気がヤバいと見抜いてか。
勇次郎の肉体を切り裂くほどだ。
直撃すれば危なかったのかもしれない。
本部も死んだし。死んでないけど。いや、死んだか?

仲間を守るために盾になる。
本来ならば熱い場面である。
有名なのを挙げるのならピッコロが悟飯をかばったシーンとか。
しかし、本部がやるともうアレですな。
うむ、武器より素手が強いのもバキなら、本部が笑いを誘うのもバキなのだ。
実にバキ的な今回の話だった。

さて、武蔵のこの素手、振り返ると刃牙の時に素手に見せている。
いつも通りに新たなライバルに惨敗するのが刃牙の仕事と見せかけて、実は武蔵の本気を引き出していた。 敗れてから評価を上げる刃牙であった。
でも、今の刃牙は本部に負けるくらいだから取り返せないか?
そういえば、刃牙の繋がりのネタとして同じ範馬姓なのにそこについては突っ込んでいない。
まぁ、金玉の痛みがあるから気にしている場合ではないのかもしれませんが。

武蔵の奥義が人体を切り裂くほどの素手なら昂昇が対抗馬として適役かも。
(わりと事あるごとに言っているのですが)ドイル戦の昂昇の戦い方は格好良かったしまた見てみたい。
本部よりも格好良いところを見せられるに違いないゾ。

しかし、今回の本部、以前に小生が書いたことと同じことをやりやがりましたな。
本当にヒロインポジションになるとは思わなんだ。
ネタで書いたことを本当にやられると困りますね。
いや、小生はコンビニで吹き出してしまったわけですが。
うん……本部のこれ、どう見てもギャグだよなぁ……



刃牙道(8): 少年チャンピオン・コミックス