かつて範馬刃牙は幾度も翻弄された。読者も翻弄された。
ジャックも翻弄されることになるのか?
3週間の休載を経てその答えが明らかになる!
食事ということで、マネージャーの野中三夫はまずは飲み物について訪ねる。
どうやらこの親子は本気で食事するらしい。
勇次郎が普通に食事するだけでギャグになりかねない。
十分な危険球と言えよう。
「ア……」「自分ハ水デ…」
ジャックの注文は水! しかも、水道水を想定していた!!
なので、マネージャーがミネラルウォーターを承ったという返答に困惑する。
よほど味気ない飲み物ばかり飲んでいるようだ。
みっちゃんに食事に何度か誘われていたからレストラン慣れしていると思いきや童貞丸出しである。
いや、勇次郎との食事なんて初体験にもほどがあるし、トンチキなことをしても責められないが。
マネージャーはガス入りかガスなしのどちらを選ぶか訊く。
ミネラルウォーターなだけで混乱しているジャックには酷な質問であろう。
このままではジャックは恥を晒しかねない。
「水道水を注文した客にする質問かッッ」
勇次郎がジャックをかばった~~~~~~!?
ここでジャックの無作法を咎めるのではなく、マネージャーの気の利かないところを指摘し、ジャックをかばったのだった。
いや、父親として正しくはあるけれども!?
アンタ、ジャックに対してあれだけの塩対応をしてたじゃん!?
結局、勇次郎の注文によってドライシェリーとなった。
ドライシェリーは刃牙との食事でも注文していたので、勇次郎お気に入りの食前酒らしい。
このドライシェリーをジャックは一口で全て飲み干す。
勇次郎はその様子を一言窘めつつも、大きく咎めて食事に水を差すことはしない。
作法が身に付いていない息子に対するお手本のような指導である。
「ウ……」(旨イ…)
ジャック、人生初のドライシェリーの味に打ち震える。
普段は食べているのが骨か薬だ。
美味を期待するのはあまりにも厳しい。
柔らかい物どころか美味い物を食わされている。
飲み物の次に出てきたのは鮮魚のカルパッチョであった。
これをジャックは刺身と勘違いする。
普通の日本人なら見た目からして明らかに異なる刺身とカルパッチョを混同することはないだろう。
だが、闘争と鍛錬にのみ生きていたジャックは刺身と見間違うのだった。
というか、刺身なんだ。外人のジャックにとって刺身はむしろ縁遠いような……
(ウ……ッッ 旨ァ……ッッ!!!)
(コレ……コレ 魚ナノカ…?)
(口ノ中デ溶ケテユク……ッッ)
このカルパッチョにまたもジャックは打ち震える。
口には出さないもののいい反応でありつつ面白い反応でもある。
これが野見宿禰だったら特に反応しないし、何なら知ったような顔で偉そうな口をききそうだ。
久し振りにジャックに人間味を感じられたというか、今までジャックの人間味を感じる部分はネガティブな感情が多かった。
こうした素の部分を感じられるのは初めてである。
「フフ……さすがにナイフ フォークの扱いは」「遙かに刃牙の上だな」
ここで勇次郎は褒めることも忘れない。
今までの勇次郎は刃牙に愛は注げどジャックには塩対応だった。
だが、ここでそんな刃牙をあえて比較対象に挙げることでジャックへの褒めのダメージを加速させた。
攻めの消力並みに緩急の効いた見事な一撃である。
(ハッキリ言ッタッッ)(「遙カニ刃牙ノ上ダ」ト)
この褒めは完全にクリティカルヒットでジャックの感情を大きく揺るがすのだった。
ジャックにある刃牙への劣等感を上手く利用した。
メチャクチャに喜んでいるけどナイフとフォークの扱いなど本来ならジャックにとってどうでもいい要素のはずである。
だが、勇次郎に褒められたことでもはやあの世でも自慢できるレベルの誉れになったのは間違いない。
ジャックの人生観さえ揺るがす驚愕の『褒め』である。
さらに海亀のスープカレー風味にオマールのシャンパン蒸しアメリケーヌソースと料理は続きジャックは感動する。
オマールの方は「手デ食ベチャ……」「マズイ……カナァ…」なんて問いかける始末であった。
その時のジャックの表情たるや、完全に子供のそれである。精神年齢まで下げるほどのインパクトの料理だった。
この問いかけに対して勇次郎はホールではやるな、ここは個室だからOKと許可を出す。
無作法であると指摘しつつも、公の場でないのだから見逃すというこれまた見事な教育であった。
いきなりの全否定から入れば子を意気消沈させるだけで教育も身に付かない。
子供の心を削らないように、それでいて少しずつ作法を教える勇次郎の姿勢は父親として間違っていない。
何で食についてだけはこんなにも理想的な教育ができるんだ、この人は。
もっとも、ここで殻ごと食べるのがジャック範馬である。
この様子にマネージャーは驚くが、声を出さないようにこっそり諭す勇次郎である。
こうしたフォローも欠かさない。
ある意味では刃牙よりも丁寧だ。
刃牙には叱ったりした結果、反発を招いた部分もあったから、軽く諭すように心がけているのかも。
範馬勇次郎の教育は進化している……!
「無事―――――終わるのか……!!?」
とてつもなく穏やかに、それでいて面白おかしく進行する食事だが、二人共、範馬一族である。
ただ食事するだけでは済まない……のか?
刃牙と勇次郎はただ食事するだけで済んだ時もあったからこのまま終わってもおかしくはないような……?
勇次郎の食事会に外れなし。
ジャックの見事なリアクションも相まって妙な盛り上がりを見せるのだった。
刃牙と勇次郎の食事では勇次郎のリアクションが面白かったけど、今回はジャックのリアクションが面白かった。
勇次郎も勇次郎で見事な教育の姿勢を見せており、両者共に持ち味を活かした形だ。
いや、持ち味なのか、これ……?
読者としてはジャックに親しみやすいところを感じられたのが嬉しいところだ。
どうにも無機質な人間でしたからね。
賞賛を欲する姿勢も矛盾点みたいなのを感じられて愛嬌とは感じにくかった。
そこで今回の食事ですよ。
こりゃ夏コミでジャック本が大量に作られますよ。無理か。
なお、今回のジャック、けっこう小さく見えた。
身長240cmなのだから勇次郎との身長差は相当あるはずなのに少し大きいくらいに収まっている。
いや、料理に対してこんな反応をする人は小さく見えるのも道理だけど。
迫力で大きく見えるのなら迫力がなくなれば小さく見えるのだ!
ジャックの面白いところが見られたけど、ここからどう話が繋がっていくのだろうか。
というか、もう人生の目的を果たしてしまった感さえある。
父親とこんな食事ができれば母の無念を晴らすという目的を忘れてもおかしくありませんよ。
ジェーンは存命しているし、いっそ父母息子で一緒に食事をしてみるか?
おそらく刃牙が本当に望みつつも二度と果たせない偉業だし、それが実現すれば刃牙に完全勝利ですよ。
少なくとも親子愛部門では二度と負けなくなるぞ。
次回へ続く。